「切り餅」事件とオープン&クローズ戦略(1)~”三方よし”への道
以下に列挙した通り、これまで「切り餅」事件について、複数回に分けて述べてきました。
その中で、後半では、争いを避けるにはどうしたら良いか?ということにも言及してきました。
今回、その趣旨を踏まえつつ、さらに踏み込んで、自社・競合・顧客のいずれにもメリットがあるビジネスが考えられないか、具体的な提案を試みたいと思います。
オープン&クローズ戦略に当たっての課題
オープン&クローズ戦略については、以前も触れたことがあります。
その中で、「買い手」の体験プロセス(UX)として以下を挙げました。
- まずは「商品」の魅力を知る
- 次に「売り手」の魅力を知る
- 最後に「購入」のメリットを判断する
また、それを前提にして、オープン&クローズ戦略の在り方として以下を挙げました。
- オープン戦略:商品の魅力 ☞ 周知の仕掛け ☞ 顧客&協業が注目 ☞ 市場が最大化
- クローズ戦略:自社の魅力 ☞ 収益の仕掛け ☞ 競合&顧客を牽制 ☞ 利益が最大化
そして、それらを図解したものとして、下図を掲げました。
以上のことは、「買い手」の視点に立つべき、という趣旨で述べたものでした。
しかし、一方で、「競合」の視点に立てば、果たしてこれで十分なのか?という疑問があります。
従来、ビジネスにおいて競争優位の戦略を取ることは、いわば当然だったかと思われます。いわゆるオープン&クローズ戦略も、そのための手段と捉える向きも多数かと想像します。
しかし、そのことがオープン&クローズ戦略の可能性を狭めてはいないか?というのが筆者の問題提起です。
具体的には、昨今よく言われる共創・協創の考え方を導入できないか?と考えております。そこで、それを踏まえた新たな考え方について、次に触れたいと思います。
”三方よし”とCSV
いわゆる”三方よし”という言葉があります。「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」という、近江商人の言葉として知られています。(そのように言われ出したのは後世になってから、という話もあります。)
このことは、近年言及されているCSV(Creating Shared Value、共通する価値の創造)とも親和性があるとして、話題にする向きもあるようです。
同じく社会課題に向き合う活動として、従来のCSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)がリスクマネジメント(”守り”の活動)であるのに対して、CSVは社会課題をビジネスチャンス(”攻め”の活動)と捉える考え方です。
”三方よし”のオープン&クローズ戦略とは?
しかし、この”三方よし”における「売り手」「買い手」「世間」の構図は、いわゆる3C(Customer, Competitor, Company)と比べてみると、「自社」と「顧客」に着目したもので、「競合」(つまり「商売がたき」)は意識されていないかと思われます。(おそらく「世間」に入るものかと推察します。)
また、CSV(共通価値の創造)においても、「競争による価値向上」という視点はあるのかも知れませんが、競争と共創・協創との関係については、明示的に意識されていないように思われます。
ここで、3C(自社、競合、顧客)による”三方よし”を考えてみたいと思います。3Cが共創・協創することによって「世間よし」を実現する、という考え方です。
少なくとも、「自社」と「競合」の関係については、単なる競争関係に押し留めるのでなく、より広く「自社」と「他社」と捉え直し、以下のように変えることになります。
- 「商品の魅力」について、自社・他社で共に考え、オープンな仕掛けを協創で構築し、顧客への提供価値を協創で増大させる
- 「各社の魅力」について、各社で個々に考え、クローズな仕掛けを各社で構築した上で、顧客への提供価値を競争(切磋琢磨)で増大させる
以上のことを図解すれば、下図のようになります。この場合、「顧客よし」と「協業よし」が「世間よし」になるかと思われます。
このような、言わば”三方よし”のオープン&クローズ戦略について、次回は具体的な仮想事例で見て行きたいと思います。