「切り餅」事件とオープン&クローズ戦略(3)~「共創」で生まれる新たな「競争」とは?
「切り餅」事件を例にした「オープン&クローズ戦略」の最終回です。
前回は、「自社よし」「顧客よし」「競合よし」の”三方よし”で「世間よし」を共創するアイデアとして、「切り餅ランド」という仮想のサービスを取り上げました。
一方、共創によって競争は無くなるかと言えば、実はそんなことは無く、また新たな競争が生まれますし、それは必要なこととも言えます。
今回、新たなアイデアを前提に、さらに踏み込んだアイデアの考え方について述べたいと思います。
競争が無くなると・・・?
改めて、「買い手」にとって「売り手」同士の競争は、基本的には良いことです。低価格を期待できるだけでなく、各社が競って独自の商品を提供することで、買い手には「選択の幅が広がる」からです。
逆に言えば、競争が無くなれば選択肢が無くなり、魅力が無くなれば顧客も来なくなりますから、結果的に”三方損”になってしまいます。(”三方損”という言葉は無さそうですが・・・”三方一両損”ならありますが違う意味ですね。)
つまり、どんな形であれ、「売り手」同士がお互いに切磋琢磨する環境があること、つまり競争環境があることは必要と言えます。
新たな競争環境とは?
一方、共創しながら競争するというのは、なかなか困難なものです。すぐに思いつくのは、例えば、お餅の種類で住み分ける(セグメンテーション)という考え方があるかと思います。
しかし、すでにお餅の総合メーカーとも言える越後やサトウなどは、そのようなセグメンテーションに満足しないでしょう。それを安易にやれば、単なる売上規模の縮小に陥る可能性があるからです。
そこで、顧客への価値提供について、新たな切り口を考えてみたいと思います。改めて、「買い手」(顧客)の体験プロセス(UX)について、以下を考えてみます。
- お餅を”食べる”というコトを楽しむ
- お餅を”創る”というコトを楽しむ
前者の場合、例えば、高級なお餅を「イートインで・ゆっくり・リッチに」楽しむのか、それとも、多種多様なお餅を「テイクアウトで・手早く・お安く」楽しむのか、という選択肢があり得ます。
これは、「売り手」にとってみれば、”食べる”というプロセス(コト)を新たな顧客価値と捉えて、その提供を競い合うということになります。”高級なお餅”とはいったい何なのか、ということを考えるのも、新たな競争優位性を獲得するきっかけになる可能性もあります。
後者の場合、モチ米を選ぶところから始まり、臼や杵または餅つき機を選び、味付けをいろいろ工夫し、トッピングや形状のバリエーションを考えるなど、お餅を創るプロセスをいろいろ選んで楽しんで貰うということがあり得ます。
これは、「売り手」にとってみれば、”作る(創る)”というプロセス(コト)の顧客価値提供を競い合うことになります。場合により、臼や杵も創る、餅つき機を組み立てる、などとブレイクダウンするのも、新たな独自性に踏み出す一歩になり得るかも知れませんね。
発想の転換と実行への課題
以上を実行するには、「餅は作って売るものだ」という、従来型のビジネスモデル(製造販売)に縛られた固定観念からの脱却が課題となります。
切り餅を製造するプロセスには、それぞれのメーカーが長年蓄積してきたノウハウが詰まっているはずですが、例えば、それを顧客へのサービスに転換するには、相当な発想の転換に迫られます。
全く異なる業態(サービス提供)へ踏み出すことにもなるので、その実行に当たっては、経営陣による了解といった程度では足りず、いわゆる経営判断、経営陣自らによるトップダウンといったレベルの決断が不可欠と考えます。
トヨタなどの自動車メーカーが、車を「作る」から「使う」(シェアリングなど)へとシフトを試みていますが、これもトップダウンです。
一方、現実の困難は、トップダウンした更に先にあると考えます。お餅を「食べる」や「創る」という新たな顧客価値を提供するには、現場においては、顧客視点に密着するといった行動が不可欠となります。
製造現場を軸にした価値創造からは、相当な行動変革が迫られます。これには、現場の努力と共に、それを支える経営陣によるバックアップが不可欠と考えます。
”生々流転”と”温故知新”
ここまで、”三方よし”のオープン&クローズ戦略による新たな価値創造について述べてきましたが、それを実行するに当たっての困難さについても、最後に述べさせていただきました。
いつの時代も、新たな価値創造を迫られる場面は常に訪れ、その結果として新たな競争環境が生まれるのは不可避であり、それに応じた新たなビジネスモデルの構築に迫られることの繰り返し。”生々流転”(万物は絶えず生まれ、変化し、移り変わる)だと思います。
”モノづくり”を誇ってきた我が国のメーカー群も、そのような場面に遭遇していると思います。今回は”コトづくり”を解決策として取り上げましたが、筆者としては、安易に”コトづくり”に飛びつくことは良策では無いと考えております。
長年に渡って培ってきた”モノづくりニッポン”の強みを捨てることなく、しっかり生かし切ることこそが、我が国が生き残り、さらに発展するための道筋だと考えております。”温故知新”(古きを温めて新しきを知る)を大切にと願って、本稿を終えたく思います。