ビッグワードで儲けるオープン戦略(1)~商標権の使い方
オープン戦略を考えるとき、商標をどう獲得してどう使うべきか、悩むところだと思います。
今回、「ビッグワード」という切り口で、少し考察してみたく思います。
新技術や新市場を表す「ビッグワード」
新たな技術や市場が出現すると、いわゆる「ビッグワード」として世に広がるケースが多く見られます。
例えば、「人工知能」「自動運転」「バイオマス」などが挙げられます。
ビッグワードは、汎用的だが、その内容が抽象的なことから、ネット検索に掛けると膨大な件数がヒットするキーワードと言えます。
下表は、J-PlatPatで簡易な特許検索をした結果です(2022年5月16日現在)。通常、1000件を超えるようなキーワードは、さらに絞り込みに工夫が求められますが、これらはその一例と言えます。
単位:件 | 特許 | 意匠 | 商標 |
人工知能 | 2368 | 46 | 23 |
自動運転 | 12943 | 132 | 21 |
バイオマス | 8783 | 23 | 118 |
ビッグワードは商標登録できない
ところで、いわゆる「ビッグワード」は、たいていの場合、商標登録ができません。
というのは、「誰でも使うようなキーワードやマークなどは、特定の者に独占させてはならない」という考え方があるためで、商標法にもそれに沿った条文が幾つか存在します。
例えば、トヨタが「自動運転」という登録商標を取ってしまったら、日産もホンダもマツダも、原則として「自動運転」という言葉を使えなくなってしまいます。
そのような名称は、「普通名称」や「慣用名称」などと呼び、商標登録で独占できないようにしています。いわゆるビッグワードも、そのような言葉のひとつと言えます。
特定の者に独占させないことで、関連分野の発展を妨げるのを防ぐ意味が大きく、さらに、その分野にどんどん参入させることで、大きな市場が成長するという効果もあります。
バズっているキーワードを独占できれば大きなメリットですが、バズってしまったがために商標登録できない、ということですね。
「スモールワード」から「ビッグワード」へ
一方、あまり有名でなく、誰も使っていないようなキーワードを、敢えて独占せずに宣伝しまくって有名にしてしまい、大きな市場成長に導くという手もあります。
たとえば、先に触れた「QRコード」は、そもそも造語(”Quick Response”の頭文字)なので、最初は「スモールワード」、つまり、検索しても引っかかってこないキーワードだったはずです。
そういうキーワードは商標登録しやすいのですが、デンソーウェーブの巧妙なところは、スモールワードである間に商標登録しておき、その後に大々的に開放してビッグワードに仕立て上げ、市場創造を成し遂げた点にあると思われます。
その結果、「二次元コード」と言えば「QRコード」、「QRコード」といえば「デンソーウェーブ」という名声を勝ち取っています。実に見事なオープン戦略&ブランディング戦略と言えます。
オープン戦略は、敢えてライバルを呼び込む手段でもあるので、”先行者利益”を如何に確保しておくかは、戦略実行の重要な鍵となります。デンソーウェーブは、その意味で非常に優れた戦略家と言えますね。