「切り餅」事件と知財戦略(7)~特許を「踏まれる側」の前向きな戦略とは?
「切り餅」事件についての続きです。今回は前回の逆で、特許を「踏まれる側」の立場を論じてみたいと思います。
つまり”先発”である側(本件では越後製菓)が、どうすれば特許を踏ませないで、もっと”前向き”な方策をとれただろうか、というのを、同じくまったく無責任で勝手(?)な視点でもって、触れてみたいと思います。
先発の戦略(1)~「技術」と「効果」の”縄張り”を固める
ところで、2021年度の売上高は、サトウ食品が469億円、越後製菓が187億円。いずれも餅が主力ですが、売り上げはサトウの勝利ですが、中身を見れば、越後の方が若干、餅の他にも裾野を伸ばしているようです。
切り餅自体はサトウが先発のようですが、こと「切込みによる焼き上げの美感」という技術に限って言えば、越後が先のようです。ここでは、技術に注目して越後を先発として論じます。
以前、特許を「踏まれる側」たる先発メーカーならば、「マモル」という方策があることを述べました。
- 先発メーカーとして、特許ひとつで安心するのでなく、その技術や製品の本質を見極め、その応用展開の可能性を掘り下げる。
- それにより、技術・製品のバリエーションを次々と生み出すことに挑戦する。
- それが結果的に”マモル”(特許侵害の防止)にも繋がる。
越後の特徴である「側面の切り込み」は、側面に切り込みを入れる「技術」と、綺麗に焼きあがる「効果」からなると言えます。これは、先発メーカーたる越後が守るべき”縄張り”と言えます。
ただし、この”縄張り”の中では、より多くのバリエーションが考えられます。例えば下図のように、切込みが”ジグザグ”でも同様の効果があると予想されます。越後の特許には、一直線に限るとの明記はなく、ジグザグも許容される可能性はあります。
そういったバリエーションは、別途特許を出してもよいし、何より、商品のバリエーションとしてもあり得るかと思われます。「面白いデザインのお餅」として売り出せば、顧客を引き付ける新たなポジションを築ける可能性も否定できません。
先発の戦略(2)~「独自性」×「独自性」
先発メーカーは、他社には無い「独自性」で売り出す訳ですが、その「独自性」を常に見直し続けることが重要と思います。
前回の記事で示した下表を再度用いて、改めて越後の視点で、サトウやたいまつ食品に無い、越後独自のキーワードを見てみます。
訴訟では「美感」に注目が集まりましたが、越後は当時、「電子レンジ」で簡便に調理できる技術も多く出願していました。また、「海苔」を巻いた餅に関する特許は、他社があまり出していないものでした。
これを踏まえると、例えば、「電子レンジでの調理が簡便で、側面の切り込みにより美しく焼き上がり、海苔を巻くことで形状と風味が整えられた餅」など、独自性を掛け合わせた発明があり得たかと思われます。
よく、自社の基本特許は、それを補完する周辺特許で固めるのが好ましいと言われます。そうして”守り”を固められた技術領域は、自社の”縄張り”となります。他社から踏み込まれるのを防ぐ”縄張り”構築は、先発メーカーならばやっておくべき仕事と言えます。