知財戦略

「切り餅」事件と知財戦略(6)~特許を「踏む側」の前向きな戦略とは?

えがちゃん

「切り餅」事件についての続きです。

今回は、「特許を踏む側」、つまり”後発”である側(本件ではサトウ食品、当時は佐藤食品工業)が、どうすれば特許を踏まないで、もっと前向き”な方策をとれただろうか、まったく無責任で勝手(?)な視点でもって、触れてみたいと思います。

後発の戦略(1)~先発の「効果」だけを真似る

前回、メーカーの場合は、新たな技術や製品を次々と開発するのが本分で、「特許を踏む側」たる後発メーカーならば、「サケル」という方策があることを挙げました。

サケル(避ける)☞独自技術・独自製品の新たな開発
  • 後発メーカーとして、相手の特許をちょっと外しただけの”姑息”な技術開発は避ける。
  • むしろ、自社の本来の強み社会的な価値を改めて振り返ることで、自社「ならでは」の独自技術・独自製品の新たな開発に挑戦する。
  • それが結果的に”サケル”(特許侵害の事前回避)にもなる。

上記では、「ちょっと外しただけの”姑息”な技術開発」と否定的に書きましたが、一方、意外とこうしたものが良い発明になることもあるので、全否定できないと考えます。

本件の場合、越後製菓の発明は、側面に切り込みを入れることで、餅を焼いたときに、破裂したりせず、上下にフワッと分かれて綺麗に焼きあがる、というのが「発明の効果」でした。

これと同様の効果を出そうと思えば、側面に切り込みでなく、上面の周囲に切り込みを入れても、おそらく同様にフワッと持ち上がって、綺麗に焼き上がるかと予想されます。

先発メーカーの強みは、技術が斬新という以上に、その効果が優れているから、ということも多々あります。本件も、切り込みの入れ方ではなく、結果として得られる「フワッと持ち上がる」に注目していれば、越後製菓も異なる特許のクレームを考えられたかと想像します。

後発の戦略(2)~特許に頼らない「自社の強み」に立ち返る

実は、この訴訟に至る前、サトウ食品は「上面に切り込みを入れた餅」の特許を出願していました(特願2002-261947)。

そこには以下のような図があり、綺麗に焼きあがるという効果も主張していました。しかし、それは新規性や進歩性が無いとして、残念ながら特許にはなりませんでした。

特許にならなかった理由として、この特許の特徴が「滅菌」と「包装」という点にあったからであり、それは”当たり前”の技術だからです。

この「滅菌」と「包装」については、サトウの”十八番”でもあります。サトウは、餅業界で初めて餅を一切れ一切れ無菌化包装する技術を開発した会社で、「滅菌」と「包装」を当たり前にしたのもサトウ自身。自らの技術が壁となって特許にならなかった、とも言えます。

サトウ食品 会社概要
サトウ食品 会社概要

この辺は難しいところで、「特許にならないから商品もダメ」とは言えません。特許性商品性(商品として売れるか否か)は、必ずしも一致しません。

実際、敗訴して以降も、サトウの切り餅は店頭で見掛けますし、越後などよりもむしろ多く陳列され、順調に売れているようです。

これは、サトウの消費者に対する”ブランド力”と言え、それがサトウの強みです。特許は売れ行きに関係ない、とも言える状況かと思われます。

サトウは、側面の切り込みにこだわらず、むしろ、最初から自社のブランド力で勝負した方がよかったのでは、とも考えられます。

後発の戦略(3)~他社には無い「自社の独自性」に注目する

後発としては、先発を含む他社には無い「自社独自性」をしっかり把握しておくことは重要と思います。

ここで餅メーカーである越後サトウたいまつ食品について、各社がどのようなキーワードを特許で使用しているか、件数を比較しものです。(越後の特許が出された2004年以前の期間を対象としています。)

これを見ると、「新鮮」や「無菌」など、サトウのみに現れるキーワードがあることが分かります。上述した特許にならなかった発明は、正しくそれが特徴でした。

また、「焦げ目」に着目したり、「女性」や「子供」をターゲットにした開発方針が窺え、それがサトウならではの”独自性”ある開発ターゲットだったかも知れません。

そしたポイントに開発を集中すれば、特許性を高めると共に、顧客への強いアピールにも繋がる可能性はあります。日頃から、特許マップなどでこうしたことを”ミエル化”しておくのも、研究開発にとって重要なことと考えます。

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筆者の紹介
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「ゆめ知財」の主宰者
弁理士&知財経営コンサルタント。30年余りのメーカー勤務を経て、フリーランスとして活動中。知財だけでなく、会社生活、産学連携、中小支援、地方創生、森林活用など、色々なことをカフェ気分で気軽に語り合いましょう!
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