知財戦略

「切り餅」事件と知財戦略(5)~争いを避けるには?

えがちゃん

「切り餅」事件についての続きです。前回までは、特許紛争への対処方法などが中心でした。

今回は、そもそも、「どうしたら争わずに済んだのか?」について考察してみたいと思います。

争いに至る場合

特許を踏む側」と「特許を踏まれる側」、それぞれの論理について、改めて整理してみます。両者の行動と対策は、それぞれ以下の通りです。

特許を「踏む」側
  • マネル(真似る=模倣)
  • ゴネル(ごねる、”守り”の交渉)
  • ツブス(潰す、権利への攻撃)
特許を「踏まれる」側
  • ツクル(創る=創造)
  • セメル(攻める、”攻め”の交渉)
  • ツブス(潰す、事業への攻撃)

以上が、これまで触れてきた内容です。

争いに至らない場合

一方、争いに至らないための対応、というのも当然あります。結論から言えば、以下のような対応となります。

特許を「踏む」側
  • モラウ(貰う、和解または協業への交渉)
  • サケル(避ける、特許侵害の事前回避)」
特許を「踏まれる」側
  • ユズル(譲る、和解または協業への交渉)
  • マモル(守る、特許侵害の事前防止)

モラウ・ユズル

「セメル」「ゴネル」というのは、争いに至りがちな行為ですが、そこの発想を転換して、和解に持ち込むか、いっそ協業の話にしてしまうのが、「モラウ」「ユズル」という手段です。

モラウ(貰う、権利の譲り受け)
  • ”ゴネル”の過程では、相手の弱み(特許に問題があるなど)に付け込むことになるが、むしろ最初から、「協業」を念頭に交渉を申し入れる。
  • 相手の特許に対しては、”敬意”が求められる。クロス・ライセンスや特許を共有する場合もある。
ユズル(譲る、権利の譲り渡し)
  • ”セメル”の過程では、自分の弱み(特許に問題があるなど)に付け込まれないように、ということになるが、むしろ「協業」のきっかけと考えての交渉に転換する。
  • 相手の事業や技術に対する”敬意”が求められる。上記と同じく、クロス・ライセンスや特許を共有する場合もある。

お互いの特許、事業、技術に対して、お互いに敬意を抱いて注目していれば、争うという発想にならず、もっと前向きなアイデアが出てくるのではないか。理想に過ぎるかも知れませんが、筆者はそう考えます。

顧客の立場からも、より前向きな新商品が出てくる可能性も高まるので、好ましい方向ではないかと思われます。もっとも、BtoBで二社購買の場合、相見積もりを取りたい二社が組むというのは、複雑ではありますが。

サケル・マモル

一方、そもそも、「特許を踏まない・踏ませない」というのが、本来あるべき姿かと思います。要するに、「サケル」(避ける、特許侵害を事前回避)と「マモル」(守る、特許侵害の事前防止)です。

しかし、これらの対策には、少し消極的な響きがあります。「特許を踏まれる側」を先発メーカー、「特許を踏む側」を後発メーカーとした場合、そもそもメーカーとして、新たな技術や製品を次々と開発する、といった行為が本分と考えます。

そういった視点で、「サケル」「モラウ」を考えると、以下のようなことになるかと思われます。

サケル(避ける)☞独自技術・独自製品の新たな開発
  • 後発メーカーとして、相手の特許をちょっと外しただけの”姑息”な技術開発は避ける。
  • むしろ、自社の本来の強みや社会的な価値を改めて振り返ることで、自社”ならでは”の独自技術・独自製品の新たな開発に挑戦する。
  • それが結果的に”サケル”(特許侵害の事前回避)にもなる。
マモル(守る)☞技術・製品バリエーションの更なる開発
  • 先発メーカーとして、特許ひとつで安心するのでなく、その技術や製品の本質を見極め、その応用展開の可能性を掘り下げる。
  • それにより、技術・製品のバリエーションを次々と生み出すことに挑戦する。
  • それが結果的に”マモル”(特許侵害の防止)にも繋がる。

争いから「共創」へ

以上、特許の争いが、ちょっとでも前向きな話になるように、と思って述べましたが、まだ物足りなさが残ります。

それは、前回も触れた通り、「顧客への提供価値」です。この視点が無ければ、所詮は自社と競合の関係だけしか見えなくなり、本当の意味で価値ある技術や製品の開発には至らないのではと考えます。

そういった意味では、上述のような「サケル」「マモル」に留まらず、新たな価値の「共創という段階に至るのが望ましいのではと思います。

また、さらに踏みこんで、そうして研究開発した技術や製品を、オープン&クローズ戦略の中でどのように利用するか? ということも、重要な課題になるかと思われます。

いずれ、そういったことについて触れてみたいと思います。

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筆者の紹介
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「ゆめ知財」の主宰者
弁理士&知財経営コンサルタント。30年余りのメーカー勤務を経て、フリーランスとして活動中。知財だけでなく、会社生活、産学連携、中小支援、地方創生、森林活用など、色々なことをカフェ気分で気軽に語り合いましょう!
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