良い技術ならば、事業になるのか?~特許化・商品化の先にある”事業化の壁”
「技術には自信あり」「特許も取れた」「商品まで完成した」・・・
ここまで来れば、あとは売るだけ・・・と思いたくなりますが、そう簡単には行きません。
筆者はこれまで、研究開発、生産、技術営業、新製品開発、新規事業企画など、技術が事業へつながっていく過程を、いくつかの立場から経験してきました。
その中で感じるのは、「良い技術をつくること」と「事業をつくること」は、かなり違った仕事だなあ、ということです。
今回から、「新規事業・研究開発はなぜ進まない?―技術を事業につなげる5つの壁」というテーマで、技術を事業へつなげる途中で起こりがちな問題を、筆者自身の経験も交えて考えてみたいと思います。
特許化・商品化しても、事業化できるとは限らない
2026年9月、島根県雲南市の遠赤エコセラ研究所が、松江地方裁判所から破産手続開始決定を受けたと報じられました。
同社は、前身企業で遠赤外線と二酸化チタンの研究を続け、「遠赤エコセラ」を利用した空気清浄機を開発。特許第6923975号を取得し、商品化にも至っていました。
ところが、FNNプライムオンラインの報道では、空気清浄機などを販売していたものの売り上げが思うように伸びず、開発費用がかさんで債務超過となり、さらに2025年12月に会長が亡くなり、その後も業績回復の見通しが立たず、事業継続を断念したとされています。
もちろん、この会社の破産原因が、単純に「技術は良かったが、商品が売れなかった」事例だということはできません。営業力、資金力、組織力など、複数の要因があったと考えられます。
しかし、少なくとも「特許化」と「商品化」が「事業の継続」には結びつかなかった事例だということは言えるかと思います。
このことは、特許、商品、事業の間に、どのような関係があるのかを考える上で、示唆的な事例だと言えます。
「技術」「商品」「事業」の関係は?
筆者は以前、「研究開発の落とし穴」として、技術的に差別化できていることと、商品として差別化できていることは同じではない、と書きました。

独自の材料や製法で高い性能を実現しても、顧客がその性能を必要としていなければ、その技術的な差は商品の価値につながりません。別の安価な商品や、異なる仕組みの代替手段で同じ課題を解決できるなら、そちらが選ばれる可能性もあります。

ここで、技術や商品が事業につながる過程に着目すると、以下のような流れになると考えられます。
- 技術が成立する。
- その技術を使った商品やサービスが成立する。
- 顧客がその商品・サービスに価値を感じる。
- 顧客が対価を支払って利用する。
- さらに多くの顧客がその後に続く。
- それに応じる仕組み(営業、生産、供給など)が次第に整えられる。
- その仕組みを維持しながら利益が得られるようになる。

ここまでつながって、ようやく「事業」に近づきます。特許も、この一連の流れの中に位置付けられます。
特許制度は、発明の保護と利用を図るための制度です。しかし、その発明で特許を取得できること、その発明を使った商品に需要があること、その事業が利益を生むことは、それぞれ繋がりはあるものの、別々に考えるべき問題と言えます。
「特許が取れた」「だから商品になる」「だから事業になる」と考えるのではなく、「事業にしたい」「それにはこんな商品や特許が必要だ」「だからこんな技術を開発しよう」というように、「目的達成のために何がなぜ必要か」という順番に、遡って考えるのが望ましいと言えます。
「技術起点」で始めて「事業仮説」に変える
では、技術から出発して事業を立ち上げようとする考え方、すなわち「技術起点」は良くないのでしょうか?
筆者は、そうは考えていません。
筆者自身もメーカー勤務の頃は、技術起点の新しい事業構想を検討し、また推進したことがあります。
最初は「この技術は面白い」「こんな可能性がある」というところからスタートして構わないと思います。しかしそれだけでは、その先に進むことが困難になります。
大切なのは、考えられる用途、顧客の候補、競合や代替手段の想定、自社の強みの活かし方、協業先の探索、商品・サービスとしての提供方法、利益を得る仕組み、といった問いへ、順次広げることです。


その過程では、最初から完成品を目指すのではなく、試作品やMVP(Minimum Viable Product:仮説を検証するための必要最小限の製品・サービス)を早い段階で外へ出して反応を確かめる、という考え方も重要になります。
ここまで来ると、研究テーマは「技術を完成させる計画」から、「この技術で誰のどんな課題を解決し、どのように価値を届け、どう事業として成立させるか」という事業仮説へ変わってきます。
技術から始めること自体が問題なのではなく、技術から始めながら、どこかの段階で、顧客、競争、提供方法、収益構造に視点を向けること、そのような転換が重要なのだと思います。
事業を続けること、技術を残すこと
筆者が新規事業を考える中で意識するようになったのは、「事業を続ける」判断と「技術を残す」判断は、それぞれ別に判断すべきだということです。

研究の結果として得られた技術や知見には、将来、別の用途で生きる価値があるかもしれません。特許やノウハウとして蓄積したり、別の商品や他社との協業に転用したりする余地もあります。
しかし、その技術を使った商品やサービス、さらにはビジネスモデルについては、同じ理由で続ける判断が妥当だとは限りません。
顧客の反応が弱い、採算が合わない、必要な販売体制を構築できない、といった事実が積み重なれば、商品やサービスを変える、ビジネスモデルを見直す、他社との連携に切り替える、いったん事業化を止める、といった判断は必要です。
「せっかくここまで開発したのだから」という気持ちが捨て難いことは、筆者も研究開発に深く関わったことのある身として、痛いほど分かります。
しかし、だからこそ、「技術の価値」と「事業の価値」は、意識して分けて評価することが大切だと考えています。
技術を事業へつなげる仮説・検証サイクル
新しい技術を事業へつなげるには、技術の優秀さだけでなく、用途、顧客価値、競合・代替、提供方法、収益構造、組織など、いくつもの条件をつなぐ必要があります。
このことを行うには、仮説と検証のサイクルを何度も繰り返すことで、適切な状態へと修正していくプロセスが重要となります。
その中でも、できるだけ早い段階で確かめるべきなのは「顧客価値」です。つまり、その技術が本当に顧客のニーズに合っているのかどうかです。
では、それを顧客に聞けば、その答えが得られるのでしょうか?そこには、またひとつの「壁」があります。
次回は、「顧客ニーズを聞けば、事業になるのか?」をテーマに、顧客の声をどう受け止めて、どのように新規事業へつなげればよいのかを考えてみます。

