オープンイノベーションを事業につなげる「組み方」とは?~「組む」を目的化しない進め方とは
前回の記事では、新規事業には既存事業とは異なる意思決定や評価の仕組みが必要なことについて触れました。

一方、自社に不足する技術、人材、顧客接点などを補うことも必要で、それには、社内の仕組みを整えるだけではなく、他社・大学・スタートアップなどとの連携も必要です。
そこで注目される方策のひとつが「オープンイノベーション」です。ただし、単に社外の誰かと「組む」だけでは、新規事業は前へ進みません。
今回は、オープンイノベーションを事業につなげるには、何に留意すべきかを見てみたいと思います。
「組む」だけで新規事業が進まない理由
オープンイノベーションというと、スタートアップへの出資や協業、大学との共同研究、他社とのPoC(技術検証)などが思い浮かぶかもしれません。
もちろん、そうした取り組みは、新規事業への入口として有用といえますが、それが本当に新規事業へとつながるかは、また別問題です。
それに関連したことが、経済産業省が2025年に公表した「共創パートナーシップ 調達・購買ガイドライン」でも触れられています。
そこでは、事業会社とスタートアップが連携してPoCまでは進んでも、本格調達や事業化が円滑に進まないケースがあることを挙げています。
オープンイノベーションでも社内における研究開発と同様、魅力的に見える技術を自社へどう取り込むのか、その先にどんな事業をどのように構築するのか、判断して前に進める仕組みが必要です。
しかし、そのような仕組みが社内に整っていないケースが多々あり、それが前に進むことを阻む要因にもなっているのではと思われます。
つまり、前回の記事で扱った「組織の壁」が、オープンイノベーションにも当てはまるということが言えるかと思います。
「誰と組むか」より「お互いに何を補うか」

社外連携では、どうしても「どのスタートアップに出資するか」「どの研究者と共同研究するか」など、連携相手から考えたくなるかもしれません。
しかし、その前に整理しておくべきは、「自社には何が足りないのか」ということではないかと思います。
そもそも技術がない、顧客接点がない。試作ができない、量産能力がない。法規制への知見がないなど、不足している要素によっては、連携相手も連携方法も変わってきます。
経済産業省と特許庁が公表した「事業会社とスタートアップのオープンイノベーション促進のためのマナーブック」では、良好なパートナーシップを構築するには、連携先と「実現したい理念」や「共同したい目的」を共有することが重要とされています。
このことは、オープンイノベーションで組む相手側にも言えることです。
たとえば、相手にとっての価値を考えずに、自社だけが一方的にメリットを取るような組み方では、継続的な連携は難しいといえるでしょう。
オープンイノベーションとは、外部にある技術や知識を一方的に取り込むことではなく、お互いの強みを組み合わせ、双方にとって新しい価値を生み出すための方策であることを、改めて念頭に置きたいところです。
PoCを「その先」につなげるには?

オープンイノベーションの目的を共有してPoCまで進んだとしても、その先に進まないケースが多々あります。
筆者自身も、共同研究などで、開始時には認識が揃っているように見えても、実際に進める中で、「何を検証するのか」「どこを成功と考えるのか」といった認識の違いが表面化して、なかなか進まなかった経験があります。
特に基礎的な研究では、研究を進める中で新しい事実が分かり、当初の方針そのものを変える必要が生じることもあります。
そのため、最初から結論まで固定するのではなく、何を確認するのか、どこを成功と考えるのか、次の段階へ進むために何を判断するのかについて、できるだけ頻度を高く、かつ柔軟に、議論して共通認識を改めておくことが重要だと感じます。
上述した「共創パートナーシップ 調達・購買ガイドライン」でも、「初期購買・検証」などの段階を設け、実際に製品やサービスを利用しながら評価を進め、検証の背景、目的、ゴール、マイルストーンなどを双方で確認しながら進める考え方が示されています。
PoCは大きなステップなので、そこで息が切れがちですが、あくまでその先へ進むためのステップに過ぎません。その先を設計しておくことが重要となります。
その場合、オープンイノベーションならば、そうしたPoC後のステップについて、お互いの「組織の壁」を越えながら進めなければならないので、相応の努力が必要なことは間違いありません。
しかし、別の見方をすれば、「自社だけで考える必要はない」とも言えます。
お互いがお互いの必要性を共有し、そのことを各々の「組織の壁」を越えるのに利用できれば、自社の研究開発部門だけでは難しかったハードルが意外と低くなることは、筆者の経験からも言えることだと思っています。
知財や契約も段階に合わせて

技術や研究開発を伴う社外連携では、知財の取扱いも重要な論点になります。
お互いに提供する秘密情報をどう扱うのか、得られた成果や知的財産を誰に帰属させるのか、その成果を誰がどのように利用できるのか、利用条件はどうするのか、事業化によって得られる対価や収益をどう配分するのか・・・
検討すべきことは少なくありません。
一方で、こうした知財や契約の問題をすべて最初に決めようとすると、連携そのものがなかなか始まらない場合もあります。
筆者が経験した産学連携でも、知財条件は企業と大学の意見が分かれやすい論点のひとつで、合意を待っていては共同研究の開始が遅れるという事情もあり、どこまでを開始前に決めるかは難しい問題でした。
特許庁の「OIモデル契約書」では、事業会社とスタートアップの連携について、秘密保持、PoC、共同研究開発、ライセンスといった段階ごとにモデル契約が用意されています。
また、公正取引委員会・経済産業省の「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」でも、NDA、PoC、共同研究、ライセンスといった各段階について、問題事例と解決の方向が整理されています。
これらの資料も踏まえると、知財に関する問題は、最初にすべてを決め切るのでも、事業化直前まで後回しにするのでもなく、連携の段階毎に必要事項を整理し、合意を積み重ねていくことが重要と言えます。
知財や契約も、事業とは切り離された条件交渉ではなく、オープンイノベーションをどのように事業へつなげるかを設計する一部と考える方がよいかと思います。

まとめ
以上、このシリーズでは、良い技術をどう事業につなげるかというところから、顧客、市場、組織、そして社外との連携までを見てきました。
新規事業に万能な方法などはないと思います。しかし、研究開発に着手する前から、顧客、市場、組織、社外との関係まで含めて事業の仮説を描き、実際に検証しながら見直していくことが、「技術を事業につなげる」ための重要な鍵ではないか、と筆者は考えます。


