知財戦略

新規事業を止める組織とは?~既存事業の「正しさ」が壁になる

江川 祐一郎

前回の記事では、未来の市場を考えるには、現在の市場だけでなく、さまざまな「変化の兆し」を捉えることが重要という話をしました。

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では、有望な技術、顧客の困りごと、そして、将来の市場に関する「変化の兆し」が揃ったら、新規事業が順調に立ち上がるかと言えば、そう簡単にはいきません。

そこには、「社内の組織」という大きな「壁」が立ちはだかることになります。

今回は、新規事業が社内で止まってしまう理由について、意思決定、評価プロセス、資源配分など、「社内の組織」の在り方から考えてみます。

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既存事業の「正しさ」が、新規事業では壁になる

既存事業では、売上・利益・品質・納期・予算など、しっかりとした指標を設定した上、その確実な目標の達成が求められます。

一方、新規事業の初期段階では、そもそも、顧客・用途・価格・事業モデル自体がまだ仮説の状態です。

この違いは、経営学でいう「知の深化」と「知の探索」にも通じます。

経済産業省の資料では、既存事業の効率化や漸進的改善を「深化」、新規事業における実験や行動を「探索」とし、企業がイノベーションを進めるには、この両方を行う「両利きの経営」が重要だと整理しています。

既存事業では、「どの程度売れるのか」「いつ黒字になるのか」「予算を守れるのか」という問いは当然のことです。

しかし、まだ顧客も市場も固まっていない新規事業に対して、既存事業の仕組みを適用すれば、新規事業に必要な試行錯誤がしにくくなります。

これは、「既存組織が古いから駄目だ」という話ではなく、既存事業と新規事業では、判断の仕方を変える必要があるということを意味します。

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新規事業を止める「意思決定・評価・リソース」

では、企業の現場では実際、どのような問題が起きているのでしょうか。

パーソル総合研究所は、従業員300人以上の企業で新規事業開発を担当する1,800人を対象に、組織や人材の要因を調査しています。

その結果、主要な課題として、人材確保や知識・ノウハウ不足に加え、意思決定の遅さや新規事業に適さない評価制度などが挙げられています。

さらに、実施率は比較的低い一方で新規事業の成功度との相関が高かった要因として、「意思決定の迅速さ」「適切な評価・マネジメント」「既存事業からのリソース確保」「社内の関心の高さ」などが示されています。

ひとつの判断に何段階もの承認を要するような仕組みであれば、仮説検証の迅速さを重視する新規事業にとって大きな足かせになり得ます。「意思決定の迅速さ」が挙げられるのも納得できる話かと思います。

また同調査では、新規事業担当者が強化すべきと考える人事施策として、「上長の理解やサポートの促進」が47%、「挑戦的な取組みを推奨・評価する人事評価制度」が38.8%と上位に挙げられています。

新規事業では、担当者個人の努力だけでなく、上司の理解や評価制度といった周囲の環境も重要ということです。

こうした問題は、担当者に「もっと頑張れ」と言って解決するものではなく、組織として新規事業をどう扱うかという問題と言えます。

新規事業を「分ければ良い」?

既存事業と新規事業を橋でつなぎ、分離と統合を両立する様子

新規事業を既存事業から独立させるために、いわゆる「出島」のような組織が設けられることがあります。

既存事業とは異なる意思決定や評価を可能にするという意味では合理的とも言えますが、それですべてが解決するわけではありません。

既存事業で培ってきた技術、人材、ネットワーク、ブランドなどは、新規事業でも活用できる、大きな強みだからです。

AGCでは、新規事業を探索する「事業開拓部」をカンパニーから切り離し、経営チームに直接レポートさせる一方、各カンパニーにも新事業を担う組織を置いています。

それだけでなく、探索した事業を既存カンパニーへ移すに当たり、一定期間、コーポレート部門がコストを負担する仕組みも設けています。

ここで興味深いのは、単に「既存事業から分離する」のではなく、分離と統合を両方設計している点です。

新規事業を既存事業の評価軸から守りつつ、自社の資産を活用して、最終的に事業として定着させるための仕組みと言えます。

新規事業の組織を作ること自体が目的なのではなく、どこを分け、どこでつなぐのかを考えることが重要ということを示す事例と言えます。

新規事業に対する経営層の役割とは?

経営層が新規事業担当者に判断の方向性と権限を託す様子

では、経営層は新規事業にどう関わればよいのでしょうか。

2023年版中小企業白書では、新規事業が成長に寄与した企業ほど、経営者が進捗管理や意思決定を担いながら、現場での指揮や業務遂行は現場に任せる、新規事業を社内に理解させるといった取組を行っている傾向が示されています。

また、前掲のパーソル総合研究所の調査では、社長・CEOが新規事業の最終決裁者となっている企業は、意思決定の迅速さや新規事業開発プロセスなどの組織マネジメントが弱い傾向があり、適切なタイミングでの権限委譲が示唆されています。

これらを踏まえると、経営者に求められるのは、「この事業は成功するのか」を最初から見抜くことよりも、「どこまでなら試してよいのか」「次の判断は何を確認してから行うのか」「誰にどこまで権限を持たせるのか」を設計すること、と考えられます。

新規事業を進めるための仕組みは、社内だけの問題ではありません。自社の中だけでは賄うことのできない技術、人材、顧客接点など、いわゆる「足りないピース」を補うには、社外との連携も必要となってきます。

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しかし、他の企業、大学、スタートアップなどと、どのように連携してゆけば、新規事業がはかどるのでしょうか?

次回は、社外との連携のひとつの方法として、オープンイノベーションをテーマに考えてみたいと思います。

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ABOUT ME
江川 祐一郎
江川 祐一郎
「ゆめ知財」代表
「ゆめ知財」代表の江川 祐一郎と申します。弁理士、知財系コンサルタントであることに加えて、知財系ライター、知財系プログラマー、知財系プランナーとして活動中です。知財戦略支援、中小企業・スタートアップ支援、産学連携支援、地方創生支援などを通じて、様々な人々や組織を繋ぎながら、夢の広がる社会の創造に貢献したいと思っています。
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