知財戦略

知財は会社をどう強くする?~旭化成に見る、知財と経営のつなげかた~

江川 祐一郎

特許や商標を取り、技術やノウハウを守り、それらを商品や事業に生かす。

これらが達成できれば、知財を十分に有効活用している、と言えそうです。

しかし、企業の経営という視点から見ると、もう一歩先があります。

それは、経営判断に知財をどのように組み込むのか、という問題です。

このシリーズの最後は、旭化成の取り組みと、2026年に公表された政府の新たなガイダンスを題材に、この問題について考えてみたいと思います。

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知財・無形資産を「成長投資」として考える

2026年8月、内閣府は「価値創造を加速する知財・無形資産投資・活用のガイダンス」を公表しました。

このガイダンスでは、知財・無形資産を企業価値向上の源泉であり、重要な成長投資として位置づけています。

そして、単に知財を保有するだけではなく、その「創出・取得・強化・保護・収益化」に戦略的に取り組み、それを投資家などへ説明することまで求めています。

ここで言う「知財を企業価値につなげる」とは、特許を金額で評価したり、件数を増やしたりすること自体を意味するものではありません。

例えば、「特許が100件もある」と言われても、それだけで、その企業が将来的に成長するという保証はありません。

重要なのは、

  • その知財が、顧客に対して、どのような価値を提供するのか
  • その知財が、競合に対して、どのような強みを発揮するのか
  • それらの価値や強みによって、どのように事業を成長させるのか

といった、具体的な成果につながる道筋を説明できることです。

知財部門を「経営」に近づけた旭化成

2022年、旭化成は、グループ初となる「知財戦略説明会」を開催しました。

同社は当時の中期経営計画で「無形資産の最大活用」を掲げ、知的財産をその重要な要素として位置づけました。

さらに同年、経営企画担当役員の直下に「知財インテリジェンス室」を新設しました。

知財部門だけで特許を管理するという発想にとどまらず、IPランドスケープなどを利用して自社・他社の無形資産を把握し、事業部門と一体となって経営戦略・事業戦略を考える体制を構築しています。

2024年に開催した「無形資産戦略説明会」では、知財だけではなく、人財、コア技術、デジタルなども含めて、それらと各事業の競争優位とのつながりや、無形資産を中心としたビジネスモデルのつくり方を、投資家などに説明しています。

「知財の言葉」を「経営の言葉」に翻訳する

旭化成の事例は、「その知財を使って、どんな会社になろうとするのか」を、会社を挙げて問い続けようとしている事例だと、筆者は考えています。

これは、知財を経営につなげるための重要なポイントだと考えます。

知財の世界では、特許の保有件数、権利範囲の広さ、その技術の進歩性といった話に興味が集中しがちです。

しかし経営側からすれば、「それで、この会社はどう変わるのか?」の方が重要です。

その問いに答えるには、「知財の言葉」を「経営の言葉」に翻訳することが重要です。

例えば、

知財・無形資産
→ 独自性
→ 顧客価値
→ 競争優位
→ 事業戦略
→ 投資判断
→ 将来の収益・成長
→ 企業価値

といったつながりが説明できれば、知財は、単なる権利ではなく、経営資源として見えてきます。

このことは、IPランドスケープを行う上でも、重要な考え方と言えます。

特許、技術、企業、市場などの情報を行き来しながら、会社の独自性や競争優位性を掘り起こし、知財戦略、事業戦略、経営戦略の言葉に、次々と翻訳していくことがポイントだと言えます。

中小企業における知財と経営

「企業価値」や「投資家への説明」というと、上場企業だけの話に見えるかもしれません。

確かに、2026年のガイダンスでは、取締役会や投資家との対話が大きなテーマになっています。

しかし、それ以前に公表された「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」では、中小企業やスタートアップが、金融機関などとの対話に活用することが想定されています。

中小企業の場合でも、

  • 顧客が自社を選んでいるのはなぜか
  • それを裏付ける技術、ノウハウ、ブランドは何か
  • 競合他社に簡単に真似されないことは何か
  • その強みを生かして、どのような製品・事業・市場に進むか
  • そのために、これから何に投資するべきか

と考えていけば、知財と経営がつながります。

それは、金融機関や事業パートナーなどに対して、会社の将来性が伝わる言葉になると期待できます。

知財で何を実現するのか

このシリーズでは、知財の使い方を種々取り上げることで、さまざまな知財戦略について紹介してきました。

第1回では、技術を広く開放する。
第2回では、相手を選んで使ってもらう。
第3回では、知財の使い道を広げる。
第4回では、標準化により市場のルールをつくる。
この第5回では、経営や企業価値へつなげる。

いずれも、知財を取ることが目的ではなく、「知財で何を実現するのか」を共通のテーマとしています。

企業がどのような将来を目標と設定し、そこから逆算して、どんな知財をどのように使うのか。

そのように考えることが、知財を生かすための道ではないかと、筆者は思います。

知財戦略について体系的に見る

知財を、特許や商標の取得だけでなく、事業目的からどう選び、組み合わせ、活用するかについては、「知財戦略とは?|事業と知財をつなぐ実践ガイド」で整理しています。

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ABOUT ME
江川 祐一郎
江川 祐一郎
「ゆめ知財」代表
「ゆめ知財」代表の江川 祐一郎と申します。弁理士、知財系コンサルタントであることに加えて、知財系ライター、知財系プログラマー、知財系プランナーとして活動中です。知財戦略支援、中小企業・スタートアップ支援、産学連携支援、地方創生支援などを通じて、様々な人々や組織を繋ぎながら、夢の広がる社会の創造に貢献したいと思っています。
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