特許で「将来予測」はできる?~「早期登録」のナゾを読み解く

えがちゃん

特許情報から「将来予測」なんて、ホントにできるの?・・・なかなか難しいですよね。

でも、「将来予測」までは行かなくとも、トレンドを読む「ヒント」は幾つかあります。例えば、出願件数の傾向、被引用の時期、登録の時期・・・、などなど。

今回は、早期登録を取り上げ、その意味について深堀りして行きます。

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審査請求制度とは?

いろいろ面倒な手続きをして、ようやく特許を出しても、そのままでは審査されません

「え?」と思う人もいるかも知れませんが、その後に改めて、「審査して欲しい!」と申し出る必要があります。これを「審査請求制度」と言います。

なぜ、そんな面倒な仕組みなんでしょう?

これは、出願したまま放置される案件があるからです。時間を掛けて審査したのに、連絡してもナシのツブテ、というのが意外と多いそうです。

そうなると、審査する側としても、無駄な労力を掛けたことになりますし、審査官の意欲も削がれますよね。特許庁としては、やむを得ない措置という感じです。

しかし、せっかくお金を掛けて出願しただろうに、なぜ放置するんでしょう?

これは、「出願するだけで効果あり」が最大の理由かと。特許は出願したら1年半後には公開されます。すると「もしかしたら特許になるかも・・・」という心理が働いて、割と大きな”牽制効果”があります。

別に登録にならなくても、効果が得られたらOK、ということですね。

早期審査制度とは?

それに加えて、さらに「早期審査制度」「スーパー早期審査制度」というのがあります。その名の通り、「早く審査して欲しい!」と申し出る制度です。

これは、具体的に事業化の予定があったり、環境関連テーマだったり(中小・ベンチャーに限る)など、一定の条件を満たせば早く審査する制度です。

特許庁の審査は年々早くなっており、特許庁や審査官の努力もありますが、調査システムの進化やAI導入など、技術進歩による影響も多大です。

また、発明者が「権利化の早い国を選ぶ」という場合も多く、多くの特許を呼び込むため、各国の特許庁が審査期間の”短縮競争”をしている、という側面もあるようです。

早期審査して貰う条件は意外と緩くて、また、その要求自体は無料でできるので、早期審査の件数は年々増えており、特許出願全体(年間30万件弱)の7%程度が、早期審査制度を活用しています。

早期登録には”意図”がある

早期審査に掛けるということは、単に出願して満足せず、早期登録したい意思が見えます。

早期審査には、別途書面の提出が要りますし、早期審査に別途費用が掛かる特許事務所もあるようなので、必ず何らかの”意図”があります。

下表は、包装紙およびダンボールに関する特許の内、通常の公開時期(出願から1年半)より早期に登録になった案件のリストです。(特許は赤字、実用新案は青字、未審査の案件は黒字)

王子ホールディングスが、複数の案件を集中的に早期登録しています。王子ホールディングスは業界トップの企業でもあることから、これは何らかの「新たな技術や事業の予兆」である可能性があります。

上記の場合、いずれもダンボール箱の組立ての利便性や強度の確保に関する発明です。コロナ禍で外出できなくなり、宅配でダンボールを扱うことが多くなった時期と重なりますね。

なお、上図にはレンゴーも多く登場しますが、いずれも実用新案。これは、そもそも無審査で早期登録される制度なので、上記のような意図を読むには馴染みません。

参考までに、下図は早期審査された特許の一例です。出願から登録まで半年程度、標準的な期間かと思われます。

出願人の「主観」をどこまで信じるか?

今回のケースでは、王子ホールディングス自身が早期登録を意図した、との「主観」が読み取れるに過ぎません。

そこに書かれているダンボールの技術が、本当に今後のトレンドになるか、それは保証の限りではありません。王子ホールディングスの行動が”当たる”かを含めて、他にも絡む要素が多いからです。

今回の場合、「王子は業界トップである」「複数を集中的に早期登録している」という事実を、将来予測に使える根拠としています。「その道のトッププロ」の行動をウォッチする。これは、筆者が有用として使ってきた手段でもあります。

もっとも、大手企業になれば、”ブラフ”で特許を出す場合もあったりします。最終的に、信じるか信じないかはあなた次第!?

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ABOUT ME
えがちゃん
えがちゃん
「ゆめ知財」の主宰者
「さきよみBENRISHI」のえがちゃんです!弁理士ですが弁理士らしい仕事はせず、知財系ライター、知財系プランナー、知財系コンサルタントとして、日々活動しております。30年余りのメーカー勤務を経てフリーランスに。知財だけでなく、会社生活、産学連携、中小支援、地方創生、森林活用などなど、色々な夢や悩みを、カフェ気分で気軽に語り合いましょう!
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