IPランドスケープ

「魔法びん」のIPランドスケープ

えがちゃん

前回、「おもしろ特許」シリーズで「魔法」を取り上げましたが、そのとき「魔法びん」が意外と多くヒットしたので、ちょっと気になり、「魔法びん」の特許マップを作ってみました。

すると、IPランドスケープに絡みそうなネタを幾つか発見。注目すべき点や陥りやすい罠など、色々と気づいたことがあります。

そこで以下、この「魔法びん」をネタに、ちょっとだけ、IPランドスケープ(ただし、特許情報のみから見た動向分析と戦略予想)をやってみます。

あわせて読みたい
おもしろ特許~「魔法」
おもしろ特許~「魔法」

リーダー・チャレンジャー・フォロワーの見極め~特許件数の推移より

まず、特許数の推移を見てみましょう。母集団は「魔法」がタイトルに入っており、かつ、登録されたものです。

下図の通り、盛り上がりは1978~1986年くらいの間で、その後、1991年以降はすっかし下火になっています。(あくまで、「魔法」をタイトルに持つ特許に限り、かつ、出願件数が上位メーカーの動向に限りますが・・・)

コトラーの競争地位戦略を無理やり(?)当てはめてみると、時期や件数から判断して、タイガー魔法瓶がリーダー、日本酸素がチャレンジャー、象印マホービン、ダイヤ魔法瓶工業、ピーコックはフォロワー、と言えるかと思われます。

ここで気になるのは、出願件数がピークの時期です。リーダーとフォロワーについては、1980年でピークを迎えていますが、チャレンジャーたる日本酸素については、遅れて1983年がピークです。

また、日本酸素については、リーダー達が出願しなくなった後も、出願のアクティビティを一定期間保持しています。

それらの理由については、本当のところは、当時のご当人達に聞かないと分からないことです。しかし、一般論として言えることは、

  1. リーダーが市場を拓くのを後追いしつつ、
  2. リーダーとは異なる”強み”によって、
  3. リーダーが拓いた市場を奪いにいく

というのが、チャレンジャーの常套手段、ということです。

リーダーとチャレンジャーの戦略の違い~頻出キーワードの比較

そのあたり、実際にどうだったのかを、特許分析から”邪推”する方法があります。

筆者がよく使うのは、プレイヤー毎の頻出キーワードの対比です。本件の場合は下図のようになります。(タイトルだけを引っ張ってきたので、タイトルに頻出するキーワードになります。)

これを見ると、日本酸素の特徴は「金属製」「チタン」「着脱」と見て取れます。実際、特許を幾つか見てみると、金属製で問題となる保温性の解決、ストラップの簡易な着脱構造など、リーダーたるタイガー魔法瓶には見られないような独自の”強み”を謳っていると言えます。

そして、その金属製等を特徴とした出願を、その後1990年代に至るまで継続しており、この特徴で以って”生き残り戦略”を取っていた、という見方も可能かと思います。

ただし、あくまで想像に過ぎませんし、それが成功したか否かも定かではありません。

しかし、少なくとも、過去を振り返っての「仮説検証」(当初に設定した仮説が妥当だったか否か)には使える手法かと思われます。

「先読み」をするには?~キーワードの推移

よく、「特許動向から将来予測をできないか?」という質問や要望が寄せられます。ケース・バイ・ケースとしか言えませんが、ある程度は可能と考えます。

例えば、その技術分野で、どんなキーワードが盛り上がってきているか?というのを見れば、これから注目されるであろう機能や用途などを予測する”目安”にはなり得ます。

本件では、1981~1982年という短期間に「金属製」というキーワードが急上昇しています。

これは、ほぼ日本酸素の単独によるものではありますが、IPランドスケープとしては、タイガー魔法瓶や象印マホービンなどの競合他社が、この動きを如何にめざとく捉えて、自社の戦略に生かせるか、ということになります。

実際にどうだったか、詳細は分かりませんが、上述の特許件数推移から見てみるに、おそらく各社とも、大した手は打たなかったのではないかと推察されます。

以上、全体的な特許動向の把握競争地位戦略、そして将来予測(「先読み」、今回は「後読み」)という、IPランドスケープに求められる要素を、順に追ってみました。ご参考になれば幸いです。

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUT ME
筆者の紹介
筆者の紹介
「ゆめ知財」の主宰者
弁理士&知財経営コンサルタント。30年余りのメーカー勤務を経て、フリーランスとして活動中。知財だけでなく、会社生活、産学連携、中小支援、地方創生、森林活用など、色々なことをカフェ気分で気軽に語り合いましょう!
記事URLをコピーしました