研究開発の落とし穴(4)~新たな敵との戦い
前回の記事で触れたように、モノからコトの時代となりましたが、研究開発のターゲットを商品からサービスに移すと、たいてい、”新たな敵”に遭遇することになります。
新たな敵~「競合サービス」
例えば、「自動車の製造販売」から「カーシェアリング」に参入したトヨタの場合、どのような”新たな敵”と出会うでしょうか。
自動車の製造販売の場合、トヨタの競合は従来、以下のような自動車メーカーとなります(年間100万台以上を販売する規模のメーカー)。
GM、フォード、FCA(フィアット・クライスラー)、ホンダ、日産
これが、カーシェアリングとなった場合、国内で言えば、以下のようなサービス提供会社が競合となります。
タイムズカー、カレコ、オリックスカーシェア、カリテコ、ホンダエブリゴー
ちなみに、各サービスの母体となる企業系列は、タイムズカーは独立系のパーク24、カレコは三井不動産、オリックスカーシェアはオリックス、カリテコは名鉄、ホンダエブリゴーはホンダ。母体の業界もバラバラですね。
従来とは全く異なるカテゴリの事業に参入するため、事業の枠組みやノウハウを入手するのも大変でしょうが、従来とは異なる顧客層、そして何より、相手にしたことがないライバル達に、どうやって立ち向かうのか。課題が山積みであることは想像に難くありません。
新たな敵~「代替サービス」
新たな敵としては、上記したカーシェアリング会社に加えて、カーシェアリング自体の競合サービス、つまり「競合の競合」の存在があります。ここではそれを「代替サービス」と呼びます。
簡単な例で言えば、レンタカーがあります。自動車を貸し出すという形態はカーシェアリングと同じですが、レンタカーはその場限り、カーシェアリングは定期契約(いわゆる「サブスク」)という違いがあります。
一方、「移動手段」という「課題」に着目すれば、タクシー・バス・鉄道・飛行機なども「代替サービス」となり得ます。鉄道の廃線が進む地方では、各家庭で自動車を複数所持するのは普通で、代替手段としてバス網が発達したり、自動運転の社会実験がなされることも増えています。
さらに、観光地での移動となると、旅行会社がホテルとレンタカーをセットで提供してたりしますし、地元のホテルや観光協会ではレンタル・サイクルを提供したりなど、経営主体や手段は千差万別、という感じになります。
こうなると、自動車以外の乗り物を含めた「代替サービス」は無視できなくなります。それを念頭に事業戦略を練り、それに対応する研究開発を企画推進することが必要となります。
研究開発の資源投入が変わる!
以上のように、自動車という技術ひとつをとってみても、その事業としての展開の方向性により、戦略やリソースがまったく異なってくることが分かります。
先日の不純物を除去するフィルターに関する仮想事例では、もともと持っている技術は「不純物を除去するフィルター製造技術」ですが、顧客の視点に立って「不純物を除去するサービス」への展開も視野に入れています。
しかし、「不純物を除去する」という「価値」を提供する業態はいくつもあって、同じくフィルターを使うサービス(競合サービス)でも低価格サービスや訪問サービス、場合により顧客商品を”高純度にして返す”サービスや、それを代理販売するサービス(代替サービス)まで、非常に多くのバリエーションがあり得ます。
そうなると、単に「フィルター製造技術」を持っているだけでは足りず、サブスク販売・訪問サービス・オンラインサービス、果ては顧客商品の製造ノウハウまで、まったく土地勘の無い要素に対して、研究開発の資源投入を迫られる可能性があります。
研究開発による”先読み”の重要性
ところで、日本国内の自動車保有台数は7800万台超、対して、日本国内のカーシェアリングに使われている自動車台数は5万7千台超だそうです。
自動車の台数だけを考えると、とても儲からない感じもするのですが、あくまで日本国内のカーシェアリングに限った話ですし、何より、今現在の数字でしかありません。
今後、上述したような代替サービスが次々と出現するだろうことも踏まえて、どれだけ”先読み”して手を打っておけるかも、IPランドスケープの重要な視点ですし、今後の研究開発が担うべき重要なミッションと考えます。