引き続き、IPランドスケープに期待される「将来予測」について。今回は、「早期登録された特許」について、です。
早期審査制度について
特許は、ただ出願しただけでは貰えず(当たり前ですが・・・)、特許庁に「審査して欲しい」と意思表示する必要があります。これを「審査請求制度」と言います。
これは、出願しただけで満足したり、それほど登録する意欲がなかったりする案件が結構多いため、特許庁の審査官の負担を軽減するために設けられている制度です。意思表示された案件だけ、審査に労力をかけよう、ということです。
一方、特許庁の審査は年々早くなっております。これは、特許庁や審査官の努力によるものですが、調査システムの進化やAI導入など、技術進歩によるものも大きいと思われます。
また、各国特許庁が審査期間を短くすること競い合っているという側面も大きいです。そうすることで、「権利になるのが早い国に出願しよう」という発明者を呼び込み、「知財大国」を目指すという国策が絡んでいます。
その中、「早期審査制度」という、具体的に事業化が想定されている案件や、中小ベンチャーや環境関連など、一定の条件を満たせば、優先的に審査して短期で結論を出す制度があります。
加えて、さらに短期間で優先的に審査してくれる「スーパー早期審査制度」などというものもあります。こちらも、すべての手続きをオンラインにする、実施を予定している、などの条件を満たせばよく、それほどハードルが高くはありません。
実際、その条件はそれほど厳しいものではなく、無料であることもあって、件数も年々増えており、特許出願全体(年間30万件弱)の7%程度が、早期審査制度を活用しています。
早期審査には”意図”がある
ところで、早期審査を請求する案件には、何らかの”意図”があります。
早期審査する理由の説明が求められますし、特許庁は無料でも特許事務所はそれなりの費用を請求するでしょうから、何でもかんでも早期審査、ということにはなりません。
下図は、先の記事「引用された特許の価値~特許価値指標としての被引用件数」で使ったものと同じく、包装やダンボールに関するものです。(ただし、公開年月を出願年月に変えてあります。)
これだけ見ても、特徴的な傾向は何も見られません。せいぜい、王子HDが多く出していて、レンゴーと日本製紙がその次かな、という程度です。
それに、登録された案件を加えてみると、下図(棒グラフ)のようになります。念のため、その時期に登録されたのでなく、その時期に出願されたもので、結果的に登録となった件(2022年6月時点)です。
上図では、1年半前を見ている訳なので、あまり早期審査という感じではありませんが、審査請求期限(出願から3年以内)より早く登録されている案件は、早めに審査して貰おうという、出願人の”意図”がある可能性が高く、注目してみる価値はあるかと思います。
参考までに、通常の公開時期(出願から1年半)より前に登録になったものに注目すると、下表のとおりです。この内、特許は赤字、実用新案は青字、未審査の案件は黒字です。
下図は、早期審査された特許の一例です。出願から登録まで半年程度、標準的な期間かと思われます。
出願人の”主観的判断”に基づく”先読み”の是非
以上は、「出願人が早期審査・早期登録を求めた」ということ”のみ”が”事実”です。
それに基づいて「何か意図があるのではないか?」「売れると思ったから早期登録を目指したのではないか?」などは、すべて”憶測”に過ぎません。
しかし、その”憶測”は、”先読み”においては、必ずしも否定されるものではありません。過去にあったことを”検証”したり”証明”したりするには、”事実”に基づいた客観的な判断が必要ですが、未来におこることは、”検証”や”証明”が現時点では不可能なので、いろんな事実から”推測”するしかありません。それを”憶測”と呼ぶかどうかは、確率の問題で、ケースバイケースとも考えます。
この場合、王子HDやレンゴーという、他人の主観的判断、彼らなりの”先読み”に基づく推測ですから、より曖昧になるのは否めません。彼らの”先読み”自体が外れることが否定できない訳ですから。
しかし、”その道のプロ”たる王子・レンゴー・日本製紙の”先読み”であれば、それなりに信用しても良いと考えることもできます。もっとも、彼らが”ブラフ”で早期登録したりしない、ということが前提ではありますが・・・
なお、”ブラフ”も戦略の内なので、否定するものではありません。