IPランドスケープへの主な期待は「将来予測」と思われます。本当はその先、「その将来に対してどんな手を打つか?」の方が重要ですが、この際それは横に置きます。
筆者の勤務先でも、経営陣がしきりにこの「将来予測」を口にします。世の中では、「第○次○○革命」とか「第○の波」とか言われる、そのようなものが「読めないか?」といったことです。
「そんなことが分かれば苦労は無い」というのが正直な答えかと思いますが、それだと、IPランドスケープに携わる者としては失格(?)。無理難題なのは百も承知で、何らかの工夫を求められるところです。
実際、この「永遠の課題」に対して、AI等を利用しながら、飽くなきチャレンジが種々行われているのも事実と思います。
当然ながら、筆者自身にも秘策がある訳ではありませんが、ただ思うのは、「せめて、そういった目でデータを眺めてみるだけでも、やってみませんか?」ということです。
伸びている技術分野のとらえかた
「これから来る技術」を明確に言い当てるのは至難の業ですが、特許のトレンドだけでも見ておくことは重要と思います。何らかの「気づき」が期待できるかもしれないからです。
以下、国際特許分類(IPC)のクラス(C14など上位3桁)に着目して、2019年に出願が大きく増えている特許分類をピックアップしたものです。(元データは、特許行政年次報告書2021年版〈統計・資料編〉から抜粋)
これは単純に、過去5年間(2014~2019年度)の平均出願件数に比べて、直近(2019年度)の出願件数が大きいもの(正確には直近と平均との割合)を、上から順番に並べただけです。
これを眺めるだけでも、いろんな示唆が得られます。例えば以下の通り。
- C14は、件数が少ないが直近で急激に上昇 ☞ 新しい分野が芽生える兆しかも? ☞ 実際は、残念ながら「たまたま」。これだけ少ないと、特定企業が自社都合で集中的に出願した可能性もあるパターンだが、このケースでは企業も対象もバラバラ。
- G16は、新たに設けられた特許分類 ☞ 注目すべき新たな技術分野かも? ☞ これはある意味正解。G16は、IoT、医療とAI、バイオインフォマティックスなど、情報技術の新たな応用分野から、件数が増えた分野が切り出されている。
- B64は、しばらく増減がなかったのが近年急上昇 ☞ 既存分野の新たな展開かも? ☞ 実際、ドローンをはじめとする情報技術に関連するものが増えている。
- B06は、増減を繰り返しつつジワジワと伸長 ☞ 何らかの流行に影響される技術・市場かも? ☞ スマホや携帯ゲーム機等に用いられる振動アクチュエータが多くを占め、ゲーム機やメタバース等の流行に伴う周期を持ちつつ伸びている可能性あり
- A24は、長期に渡って順調に増加・件数は中程度 ☞ 寡占かも知れないが安定した成長市場かも? ☞ 実際、電子タバコや加熱タバコに関する技術が多く、たばこメーカーやその周辺をやるメーカーが登場人物として多い。
- C12は、件数が多くて中長期に渡り増加傾向 ☞ 競争過多かも知れないが市場サイズが大きい成長市場かも? ☞ ビールやお酒というより、微生物工学・細胞工学・再生医療・抗体医薬等に関するものが多い。実際にもグローバルに競争が激しい注目分野。(数1000件レベルだと、さらに細分化してサブクラス以下に分けるのが吉)
このように、データを眺めていると、トレンドを幾つかに分類できそうなことが分かるかと思います。「将来予測」そのものズバリとは行かないですが、特定の分野に限れば、そのトレンドが何を意味するか、割と分かってくるかと思われます。
IPランドスケープと技術トレンドのパターン認識
前回の記事で、AIの「教師あり学習」「教師なし学習」に言及しましたが、上述したようなトレンドを分類することは、「教師なし学習」による「分類」が当てはまる分野かと思います。
IPランドスケープでは、以下のような問いへの答えが求められ、下に行くほど「道に迷っている状態」と言えますが、せめて上述したような「分類」が示されている、「パターン認識」ができているだけでも、「羅針盤(ナビゲーションシステム)」としての役割のいくばくかを果たすかと考えています。
- このテーマをこのまま進めて良いか?
- このテーマはこの先どこを目標に進めば良いか?
- どのようなテーマ設定をすれば良いか?
実際には、ストレートに上記のように問われることは少なく、「競合の動向を知りたい」「技術のトレンドを知りたい」「とにかく関連特許をマップにしてほしい」といった、割と漠然とした依頼内容で来ることが多いです。
そして、その依頼の意図を見極めつつ、本当に突き詰めるべきゴールはどこなのか、それを探るのに、IPランドスケープを依頼する側も受ける側も、四苦八苦するのが実際と思います。
「答えがわからない」ところに「答えを出す」。そうしたことに、上記のような「分類」や「パターン」が分かっているだけでも、かなり助かります。この「分類」や「パターン認識」は、AIの得意技。「教師なし学習」の出番かと思います。
前回の記事で触れた「即時ミエル化」というのは、そういったことを求めています。単なるビジュアル(マップ、グラフ等)を求めているのではなく、それがどういった意味を持つのか、せめて「分類」や「パターン」だけでも示して貰えるような技術は出て来ないか、と願う次第です。