「切り餅」事件を例にした「オープン&クローズ戦略」、今回で最後です。
改めて、「自社よし」「顧客よし」「競合よし」の”三方よし”で、「世間よし」を共創するアイデアとして、前回は「切り餅ランド」という、仮想のサービスを取り上げました。
それは、共創で新たな世界を創る、という話でしたが、それでは、自社と競合は競争しなくなるのか?というと、そんなことはない、というお話です。
競争が無くなると・・・?
前回、「買い手」にとって「売り手」同士の競争は良いことですね、というお話をしました。
価格競争によるコストダウンも含めて、お互い、「他社には提供できない価値」を競う結果、「買い手」から見れば、「選択の幅が広がる」から、ということです。
これは、逆に言えば、ライバル同士が競争しなくなったら、価値提供や選択肢が無くなっていくということになります。すると、
魅力が無くなれば顧客も来なくなりますから、結果的に「三方損」になってしまいます。(「三方損」なんて言葉は無いかも知れませんが・・・「三方一両損」ならありますが、ちょっと違う意味ですね・・・)
つまり、どんな形であれ、競争環境があることによる”切磋琢磨”は必要、ということです。
新たな競争環境とは?
しかし、もっぱらクローズ戦略に使っていた特許をオープン戦略に使うことで、競争優位性を維持する手段が、一部でも失われてしまうことは事実です。
それでも競争状態を保とうとするならば、また別の競争環境を創り出す、というのがひとつの手かと思います。
ここでまたひとつ、仮想のアイデアを。価値提供の切り口として、以下が思いつきます。
- お餅を”食べる”を楽しむ
- お餅を”創る”プロセスを楽しむ
前者だと、例えば、高級なお餅を「イートインで、ゆっくり、リッチに」楽しむのか、それとも、多種多様なお餅を「テイクアウトで、手早く、お安く」楽しむのか、”食べる楽しみ方”を競う、という考え方です。(高級なお餅って、いったい何なのか・・・これを考えるのも、ひとつの競争優位性かもですね)
後者だと、そもそもモチ米を選ぶところから始まって、臼や杵を選び、または餅つき機を選び、味付けをいろいろ工夫し、トッピングや形状のバリエーションを考えるなど、お餅を創るプロセスを幾つかに分けて、それぞれのステップを楽しんでもらうという、”創る楽しみ方”を競う、という考え方です。(場合によっては、臼や杵を創る、餅つき機を組み立てる、なんていうのも・・・)
以上をやるには、切り餅メーカーとしては「餅は作って売るものだ」という、従来固定観念からの脱却を迫られます。切り餅を製造するプロセスなどは、実は、それぞれのメーカーが隠し持っている強みですが、それをサービスとして生かす場合は、全く違った業態になるので、頭の切り換えが必要になります。
また、トヨタなどの自動車メーカーが、車を「作る」から「使う」(シェアリングなど)にシフトしているのと同様、お餅を「食べる」を提供するというのは、グッと顧客視点にシフトして、立ち位置を定め直す必要があります。
「三方よし」をオープン戦略とする結果、新たな競争環境が発生し、新たなクローズ戦略が必要となる。それにより、新たな価値創造を繰り返す。特に「モノづくり」を標榜するメーカーには今後、そういったことが求められるのかも知れませんね。