判定制度

判定制度とは?~特許庁による鑑定制度

えがちゃん

これまで、「切り餅事件についていろいろ考察してきましたが、越後製菓の特許に関する記録を改めてみると、サトウ食品(当時は佐藤食品工業)との争いに伴う無効審判などと並んで、「判定」というのが見られます。

J-PlatPatを参照。

今回、この「判定制度」について、簡単に触れてみたいと思います。

判定制度とは?

簡単に言えば「特許庁に対して特許を踏んでるかどうか判断を仰ぐ」という手続きです。特許法では以下のように定められており、裁判所ではなく、特許庁が判断します。

特許法第71条

1 特許発明の技術的範囲については、特許庁に対し、判定を求めることができる。
2 特許庁長官は、前項の規定による求があつたときは、三名の審判官を指定して、その判定をさせなければならない。

この「切り餅」事件では、以下の通り、佐藤食品から判定の請求がなされています。

この判定は、裁判所の判断とは異なり、その判断結果に法的な拘束力はありません。差止めも損害賠償も請求できません。しかし、特許庁という専門省庁による判断であるため、一定の影響力を期待できます。

特許訴訟だと裁判所で争うことになり、費用も手間も相当に掛かります。一方、特許を踏んでるかどうかだけを知りたい、という場合には、便利に使える制度です。

佐藤食品も、裁判の前に判定の請求をしています。判定の請求では、「サトウの切り餅は、越後の特許を踏んでいないという判断を求める」(正確には「技術的範囲に属さない」という判断)などと、割とストレートな希望を書きます。

一方、越後製菓も、「サトウの切り餅は、越後の特許を踏んでいるという判断を求める」と、真逆の請求をすることもできます。

なお、この判定には相手方(被請求人)を明示する必要があり、佐藤食品が越後製菓に内緒で特許庁とやり取りすることはできない仕組みになっています。

「切り餅」事件での判定結果は?

判定の結果は以下の通り、佐藤食品は越後製菓の特許を踏んでいないと判断しており、結果的に、特許庁と裁判所の判断が異なることになっています。

従って、如何に専門省庁たる特許庁の判断といえど、そのまま信じるのは禁物ということが言えます。

判定制度は使える制度か?

判定制度は、裁判所で本格的に争う前に、特許庁に技術的な部分に限って判断を求めるという、紛争解決の利便性を考えた制度です。

しかしながら、以下の理由で、使い勝手には課題があると思われます。筆者の周囲でも、利用した経験のある人は、あまり多くはなさそうでした。

判定制度の課題
  • あくまで”鑑定書”に過ぎず、法的な効力は無い。相手方が納得しなければ、結局は裁判になる。
  • 実質的に相手方と対立する構造になる。意見や証拠のぶつけ合いとなり、裁判での争いと内容的にはあまり変わりがない。
  • 裁判と異なる結果になることがある。結局は裁判で決着を付けないと収まらなくなる。

裁判よりも費用が掛からず、専門省庁の判断であることから、本来ならば弁護士や弁理士の鑑定よりも説得力がありそうです。

しかし、本件のように、当事者同士が徹底的に対立してしまった場合、特許庁の判断を覆すような別の材料が裁判で出てくることもあるので、お互いに穏便に済ませたい場合など、状況に合わせて利用すべき制度と思われます。

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筆者の紹介
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「ゆめ知財」の主宰者
弁理士&知財経営コンサルタント。30年余りのメーカー勤務を経て、フリーランスとして活動中。知財だけでなく、会社生活、産学連携、中小支援、地方創生、森林活用など、色々なことをカフェ気分で気軽に語り合いましょう!
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