前回、「QRコード」の特許に関する争いについて触れましたが、並行して、商標に関する争いもあったようです。
デンソーウェーブ以外のQRコード商標
QRコードに関する商標で、デンソーウェーブ以外が出願または登録している商標に、例えば下図のようなものがあります。(J-PlatPatの検索結果より)
この内、「QRコード石碑」と「QRコード墓碑」は、残念ながら(?)拒絶査定となっており、登録商標にはなりませんでした。
一方、「遺影QRコード」については、意外にも登録になっており、今も権利が存続しております。しかも、故人の回顧録をシェアしたり、通夜や葬儀への出席者への礼状に入れるなど、実際に商売になっているようです。
そして、先の特許問題でも挙げた、ロゴやイラストが入ったQRコードの特許を持っているA・Tコミュニケーションズ株式会社が持っているのが、上図一番上の登録商標です。
デンソーウェーブとA・Tコミュニケーションズとの争い
そのA・Tコミュニケーションズの登録商標に対して、デンソーウェーブはその登録の取り消しを求めて、何と10件にも及ぶ訴え(取消審判)を起こしていました。
それらのことは、下図のように、J-PlatPatの審判情報から確認することができます。「開く」をクリックすると、それぞれの審判の結果がどうであったかの詳細を見ることができます。
商標と商品・サービスとの関係
ひとつの登録商標に対して、なぜ10件もの審判を?と思われるかも知れませんね。実は、商標と言うのは、それを使う商品やサービス(役務)とセットで登録する、というルールになっています。
このA・Tコミュニケーションズによる商標登録4882830号については、以下のような商品やサービス(役務)が指定されおり(指定商品、指定役務という呼び方をします)、全部で9つあります。
- 9類 画像、電子データ、プログラム、電子機器(商品販売)
- 16類 プリンター、プリンター用インク(商品販売)
- 35類 販売、広告宣伝、コンサルティング、調査、情報提供(サービス提供)
- 36類 有価証券取引、土地建物取引(サービス提供)
- 38類 ニュース等配信(サービス提供)
- 39類 鉄道等による輸送、旅行取次、電気ガス水道(サービス提供)
- 41類 セミナー開催、電子出版、光学装置の貸与(サービス提供)
- 42類 画像、電子データ、プログラム、電子機器(サービス提供)
- 45類 冠婚葬祭、身辺調査、家事代行、その他レンタル(サービス提供)
デンソーウェーブは、その指定商品または指定サービス毎に、別々の審判を起こしたことになります。別にまとめてひとつの審判でも良いのですが、取り下げたりは審判毎に行わねばならないので、デンソーウェーブとしては、慎重を期して細かく対応できるようにしたのかと推察されます。
なお、42類については、2回の審判を起こしているので、合計10回の審判となっています。
取消審判の種類とその結果
取消審判には、大きく以下の2種類があります。
- 不使用取消審判:継続して3年以上、使用していなかった商標は、使用していないことに何か正当な理由が無い限り、その商標権を取り消すために審判を起こすことができる
- 不正使用取消審判:自分の商標やそれに類似する商標を、自ら使用したり他人に使用させた結果、他人の商品・サービスと誤認・混同を起こすような使い方をしたときは、その商標権を取り消すために審判を起こすことができる
本件では、上記した9種類の商品・サービスすべてに対して、不使用取消審判が起こされ、その結果、42類を除いてすべて取消が決定しております。
以上は全て2015年のことですが、生き残った42類については、2020年に不正使用取消審判が新たに請求されております。しかし、この42類については、今回も生き残っております。
争いの顛末
結果を見れば、A・Tコミュニケーションズの登録商標は、42類だけは生き残ったことになります。これについては実際に使われており、また、正当な使い方でもあることが、公に認められた、とも言えます。
実際、A・Tコミュニケーションズのホームページなどを見ると、画像入りのQRコードを、いろんな用途に展開している様子が窺えます。
デンソーウェーブとA・Tコミュニケーションズとは、特許の争いも含めて2015~2016年にかけて争い、いったんは「円満解決」という形となったようですが、2020年に至って改めて審判を起こしたということは、デンソーウェーブとしては不満が残っていて、その後も色々とくすぶっていたのでしょうね。
審決に見るQRコードのオープン&クローズ戦略
ところで、上記の不正使用取消審判の結果(審決)を見ると、デンソーウェーブがQRコードを如何にして世に広めたか、その経緯が記載されています。
もちろん、デンソーウェーブ自身が主張した内容が元になっていますが、結果的に特許庁がその経緯と共に著名性を認めた形です。「・・・特許権の権利行使を行わず・・・」など、オープン&クローズ戦略の一端も示されていて、興味深い審決文となっています。