ビジネスモデル特許の審査基準を読み込む(筆者個人的な)チャレンジの5回目。
前回と同じく、コンピュータソフトウェア関連の「附属書B」から「ビジネス分野」と記載ある事例をピックアップ。
今回は、「〔事例 2-9〕 無人走行車の配車システム及び配車方法1 」(p.75)を取り上げます。
本件の概要
発明の名称は「無人走行車の配車システム及び配車方法」で、特に、遊園地やテーマパークなどの敷地内で、タクシーのように無人走行車を手配できるシステムに関するものです。
遊園地やテーマパークでは、路線バスのようなものはありますが、好きな時間に好きな場所へ向かってくれる、タクシーのような乗り物はほとんど無いので、それを無人走行車で実現しよう、という趣旨です。
もっとも、この発明自体には遊園地やテーマパークという縛りは無く、たとえばウーバーの配車システムのように、公道にて実現するようなことも、射程範囲に入るかと思われます。
ウーバーの仕組みは、個人所有の有人車両の空き時間・空き空間のシェアを目指したものですが、この発明では、そもそも個人所有でない、車両自体のシェアを前提とし、かつ、無人車両を利用する、ということだと思います。
ビジネスモデルとしては、スマホのアプリなどを配車用インターフェースとしてオープンにしておき、無人車両を自由に使える利便性で集客、顔認証や車両追跡などの情報処理プロセスやノウハウをクローズにしておき、移動距離や定期契約で収益を得る、といった感じが典型かと思われます。需要者(便益を受ける者)と供給者(便益を与える者)も明確と言えます。
発明に該当するか否か?
本件を下図のように図解。クレーム(請求項)の構成は、分かりやすいように改変して、図示し易いように組み換えたりしております。
この事例は、審査ガイドブックによれば「発明に該当する」という結論です。理由を要約すると以下の通り。
- 使用目的:無人走行車の配車
- ソフトウェア(特に演算):①ユーザ情報・配車位置を送信→②車両を特定→③車両を移動→④顔画像を抽出→⑤ユーザを顔認証→⑥乗車許可
- ハードウェア(システム):携帯端末【A】、配車サーバ【B】、無人走行車【C】
- 情報処理(手順):【A】:①を送信→【B】:配車位置から②を実施・送信→【C】:③を実施→【B】:ユーザ情報から④を実施・送信→【C】:⑤⑥を実施
- 結論:ソフトウェアによる情報処理(使用目的に応じた演算)が、ハードウェア資源を用いて(システムにおける情報処理の実施)、具体的に実現(ソフトウェアとハードウェアとが協働した具体的な手順によって実現)されているので「発明」といえる。
複数の情報処理・複数のハードウェア
本件のややこしさは、複数の情報処理(車両手配と顔認証)が、複数のハードウェア(スマホ・サーバ・車両)を利用して行われる点です。
そのいずれもが、「ソフトウェアとハードウェアの協働」と「具体的な手順」という要件を満たさねばならない、というのが難易度を上げています。
次回、それらが欠けるとどうなるか、という事例をご紹介できればと思います。