特許庁職員の再就職は厳しい!?~国家公務員法の規制について
ちょっと以前の話になりますが、経済産業省から「特許庁元職員による再就職等規制違反について」というリリースがありました。

それによれば、特許庁の元職員A(課長級)、元職員B(部長級)、元職員C(局長級)の3名について、国家公務員法上の再就職等規制違反があったとのこと。”元”職員とあることから、いずれも退職していると思われます。
経産省は、それぞれに対して以下の懲戒処分を行っています。Aは求職活動規制違反、BとCはあっせん規制違反とのこと。
・職員A:求職活動規制違反、減給・3月間俸給の月額10分の2
・職員B:あっせん規制違反、減給・1月間俸給の月額10分の2
・職員C:あっせん規制違反、減給・2月間俸給の月額10分の2
なお経産省は、再発防止策として、管理職への対面研修、全職員へのeラーニング、退職予定者への個別説明などを実施するとしています。
特許庁職員のした行為とは?
発端は、元職員A(課長級)が特許庁在職中、法人Xから再就職の打診を受けたことです。
Aは法人Xに対して、自身に関する情報提供をした上、再就職先の処遇等について、情報提供を依頼しました。
これに対して、法人Xは国家公務員法における「利害関係企業等」に当たると判断され、Aの行為は「求職活動規制違反」と認定されました。
一方、元部長B(部長級)と元職員C(局長級)は、Aから相談を受けて、法人Xに対してAに関する情報提供をしました。
この情報提供は、Aを法人Xに再就職させる目的でしたものと判断され、BとCの情報提供は「あっせん規制違反」と認定されました。
国家公務員法による規制とは?
国家公務員法の再就職等規制については、内閣府の「再就職等監視委員会」が概要を公表しています。今回の件も、この委員会から経産省に通知があったとのこと。

主な規制としては、以下が挙げられています。このうち、Aの行為は②、BとCの行為は①に違反するものと判断されました。
①他の職員・元職員の再就職依頼・情報提供等規制
②現職職員による利害関係企業等への求職活動規制
③再就職者による元の職場への働きかけ規制
厳しいなあと思うのは、再就職を依頼した本人だけでなく、「この人はこういう経歴です」「こんな能力があります」と企業側に情報提供しただけの上司たちも、一緒に違反に問われたという点です。
厳しくしないとダメな理由とは?
なぜ、こんなに規制が厳しいのでしょう?その理由は、公務員が持つ権限の重さにあります。
特許庁が取り扱っている特許・意匠・商標などの知的財産権は、企業にとっては貴重な財産です。そうしたものを取り扱う特許庁の審査官や審判官などの職員は、企業にとってみれば、自社の将来にまで影響を及ぼすような強い権限を持つ存在です。
もし、そのような審査官や審判官が、在職中からある企業に再就職する話をしていたとすれば、「その企業への利便を図るような審査をしたのでは?」と疑われ兼ねません。実際に利便を図ったかどうかは関係なく、そのように疑われること自体が問題になります。
特許庁を含む行政には、公正であることはもちろん、公正さを疑われないことが求められます。特許制度は、公正なルールのもとで特許権が付与されるという、「信頼」の上に成り立っています。もし、その信頼が揺らぐようなことがあれば、発明を保護や、それにより守られている社会の秩序が破壊され兼ねません。
それが、とりわけ国家公務員に対して、一般人とは異なる厳しい規制が課せられている理由です。
企業が注意すべきことは?
内閣官房では、国家公務員OBを採用する企業向け資料を公表しています。
国家公務員OBを採用するに際して、企業側へのお咎めは基本的にないこと、しかし国家公務員側には様々な規制があること、採用したい場合の具体的な窓口、などが紹介されています。

今回、法人Xがどのような働き掛けをしたかの詳細は公表されていません。一般論として、企業から見れば特許庁OBというのは魅力的な人材で、知財部門や法務部門などで活躍して貰いたいと思うのは自然とも言えます。
しかし、実際にはメーカーなどへの再就職はまれで、多くは特許事務所、法律事務所、コンサルティング会社など、利害関係の無さそうな業界に入ることが多いようです。それだけ、メーカーなどにとっては、特許庁OBの採用は難しいということかも知れません。
もし、どうしても特許庁OBを採用したいならば、単に法規制をクリアするだけでなく、どのような手続を踏めば疑念を招かないかまで考える必要があります。
国家公務員法によれば、現職職員に「誰か良い人はいませんか」と聞くことすら、相手を規制違反に巻き込むリスクがあることを、重々承知しておかねばなりません。
まとめ
今回の件は、公務員の転職や再就職が如何に難しいか、ということを端的に示す事例と言えます。
私個人的には、公務員が退職後、それまでの知識や経験を活かして働くこと自体は、社会にとって大きな利益があることと思っています。たまに審査官の現職やOBの方々と会話することがありますが、とても刺激になりますし、とても楽しいものでもあります。
しかし、転職や再就職に至る道筋が少しでも不透明だと、たちまち疑念を抱かれてしまうのが、公務員の宿命なのだ、とも思います。
とりわけ知財の世界は、審査基準を含む各種制度が国際的にハーモナイズされてきた長い歴史があります。それだけに、それと共に培われてきた信頼を損なうことは、我が国だけに留まらない重大な問題と言えるでしょう。
今回、減給という懲戒処分は甘いという批判もありそうですが、”元”職員となっている結果から見れば、実質的には諭旨免職などと変わらないと推察されます。
そういった意味で、民間企業OBの私にとって、今回の公務員OBに対する規制や処分の厳しさは、改めて意外でした。昭和の時代には「お役人は気楽な商売だ」とよく聞かされたものですが、今は昔、ということなのでしょうね。
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