特許分析

知らない技術分野を調査するには?~特許分類からブレイクダウンする特許分析

えがちゃん

知らない技術分野の調査に迫られる、という経験はないでしょうか?

筆者は仕事柄、結構あります。というか、知財部門・調査担当・弁理士・コンサルタントなどは、「それが仕事やろ!」と言われそうですね・・・(宿命かも・・・😑)

また、事業企画や技術開発の担当など、新しいことをやってやろう!という人なら、アタリマエかも知れませんね。

そんなとき、筆者のお薦めは、特許分類からブレイクダウンして行く方法です。例えば、以下のような順番で見て行きます。

  • 調査したい技術分野に関する特許分類
  • その技術分野におけるトップ企業
  • その技術分野における技術開発のアクティビティ
  • その技術分野における頻出キーワード
  • トップ企業の技術フォーカス
  • 具体的な特許のピックアップ

以下、具体例を見て行きましょう。

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特許分類とは?

特許分類とは、特許として出される膨大な技術について、それぞれがどんな技術分野に属するのかを、一定の観点で分類したものです。(知ってるヒトには「釈迦に説法」で、スミマセン・・・)

これは元々、特許庁の審査官が、提出された発明を審査する際、その特許に類似する先行特許を効率よく発見できるように、審査の効率化を図ったものです。もちろん、特許分類は公開されているので、我々のような一般人にも利用可能です。

基本的には、人(審査官または特許庁の委託先機関)が目で見て、ひとつひとつの特許を人手で分類しており、かなり信頼性が高いと言えます。

特許分類には、IPC(国際特許分類)、CPC(共通特許分類)、FI(ファイルインデックス)、Fターム(ファイル形成ターム)など、いろいろあります。

この内、IPCCPCは、国際的に共通で使用されている特許分類です。IPCは基本、全ての特許に付与されています。CPCは、IPCをベースに欧州特許委員会と米国特許商標庁が共同で策定したもので、比較的新しい特許分類です。ただ、日本の特許への付与は一部に留まっており、筆者としては使い勝手がどうかなあ、と思っています。

一方、FIFタームは、日本国特許庁による独自の分類です。

FIは、IPCをベースに日本オリジナルの分類が付与されています。Fタームは、完全に日本オリジナルの分類体系で、コンピュータ検索を便利にする目的で1987年に導入されたものです。

特許分類(FI、Fターム、IPC)の中身は、J-PlatPatのメニューから確認することができます。

技術分野を選ぶ~特許分類「Fターム」

そのような特許分類の中でも、Fタームはお薦め。なかなか詳しく分類されていて、細かい分析をしたいとき、筆者はよく利用します。

Fタームでは、FIで分類された約20万個に渡る技術項目を、約40個のテーマグループ、約2600個のテーマコードにまとめ直しています。

以下は、「コインの検査」に関するFターム一覧表の例です。いくつもの技術的な観点から非常に細く分類されていますね。詳細な分析には打ってつけです。

今回、筆者が個人的にあまり知らない分野として、2B043農業機械一般」を取り上げてみます。(実際には「農業機械一般(3)操向」という分類。農業機械の分類は他にも幾つかあるが、この分類の出願件数が顕著に多い。)

対象とするのは、2019~2023年の5年間に出願された案件。J-PlatPatで検索、ダウンロード(CSVファイル)します。(検索からダウンロードの詳細は、ここでは省略します。)

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トップ企業を見る~出願件数ランキング

まずは、この技術分野のトップ企業はどこか?を見てみましょう。

ここでは、出願件数の多さ、つまり出願件数ランキングを指標にします。結果は以下の通り(消滅した特許もカウントしています)。

上位は、素人の筆者でも聞いたことがある、農業機械で有名なクボタヤンマー井関農機です。ヤンマーはグループ企業が個々に出願している模様です。

知らない技術分野を見るとき、上位に来る企業をまず最初に知っておくと便利です。この段階で各社のホームページなどを見ておけば、この後の特許分析の支えになります。(予備知識なくヤミクモに特許を見るのは、なかなかに苦しい!ムダも多いですし・・・)

技術開発のアクティビティを見る~出願件数トレンド

次に、この技術分野において、どのくらい新たな技術が活発に創られているか、つまり、技術開発のアクティビティがどのくらいかを見てみましょう。

ここでは、全体的な出願件数が多めか少なめか、また、全体的に増加傾向か減少傾向か、つまり、出願件数トレンドを指標とします。結果は以下の通り。

折れ線グラフは全体や各社の増減傾向を、棒グラフは年毎における各社のシェアを、それぞれ把握するのに適しています。

実は、この調査段階(2025年1月)では、2023年の出願は未だ全部は公開されていません。特許の公開は出願から1年6ヶ月を待たねばならず、2023年8~12月分は未公開です(早期公開や早期登録などを除く)。

なので、2023年分は割り引いて見る必要がありますが、全体的な傾向は微増と言えます。一方、トップ企業の動向を見ると、クボタは減少、ヤンマーは増加、井関農機は増減なし、といった傾向です。

この結果をどう見るか?全体的な出願件数が落ち着いて来ている中、トップの動向にバラツキが出てきており、今後の傾向としては、以下のパターンが予想されます。

  1. 技術開発競争がピークを迎えており、市場全体が本格的な成長期に入る。
  2. 各社技術の特徴強み)が明確になっており、市場全体としては成熟期を迎える。
  3. 技術開発の注力分野がシフトし始めており、市場全体としては衰退期に差し掛かる。

どれが当たっているかは、別の裏付けが必要ですが、筆者的には②と③の間かなぁ、という感じです。理由は、トップのクボタが、他の技術分野では件数を伸ばしているからです(ここでは、その詳細は省略します)。

農業機械関連は、特許分類が細かく分かれて増えていく傾向が見られます。それは、クボタなどの先進的な企業が、新たな技術を次々と開拓するのに追随するため、と言えます。上記のマップは、そのことを反映している可能性もあります。

こぼれ話:使われなくなる特許分類もある?

ちなみに、上記③の事例をひとつ。実は当初、2B001「田植機の機枠」というFタームを分析していたのですが、下図の通り、全体の件数が随分少なく、衰退していく傾向も見られました。

しかし、現実を見れば上記の通り、田植機を含む農業機械の技術開発はもっと盛んなはずで、素人目にも違和感がありました。調べてみると、このFタームはどうやらメンテナンスがされておらず、役割が事実上終了しているようでした。

このように、特許分類自体の信頼性が低い場合もあります。それ以外の知識・経験、場合によっては”野生の勘”(?)が欠かせない、という事例とも言えますね。

頻出するキーワードを見る~テキストマイニング

次に、この技術分野において、どのような単語や用語が多く出現するか、すなわち、頻出するキーワードを見てみましょう。

ここでは、タイトル発明の名称)や要約などから、テキストマイニングと呼ばれる手法により、キーワードを引っ張ってくることにします。

テキストマイニングをするツールやサイトは幾つかありますが、筆者が便利と思うのは、ユーザーローカル社の「AIテキストマイニング」。無料で利用可能です。

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以下は、タイトル(上図)と要約(下図)をテキストマイニングして得られた頻出キーワードを、クラウド表示したものです。出現頻度の多いキーワードは大きく、一緒に登場する頻度の高いキーワードは近くに配置されています。

これを見ることで、知らない技術分野でも、どんなキーワードが使われ勝ちなのか、おおざっぱに把握することができます。

こぼれ話:ポジティブかネガティブか、自動的に分かる?

ディープラーニングの利用によって、そのキーワードが、ポジティブネガティブ、どちらの意味合いで使われているか、自動的に分かるようになってきています。

上記した「AIテキストマイニング」にも、そういった機能が備わっています。下図では、「精度」や「効率」は「良い」意味、「状態」は「悪い」意味で使われている、という結果です。

特許で利用する場面としては、技術背景や引用文献のセクションから「悪い」技術(問題ある従来技術)を抽出して課題を把握したり、課題の解決手段のセクションから「良い」技術(すなわち新規技術)を抽出して特許性のポイントを把握したり、などが考えられます。

トップ企業の技術フォーカスを見る~出願件数シェア

次に、この技術分野のトップ企業が、どのような技術にフォーカスしているか、略して「技術フォーカス」を見てみましょう。

下図は、クボタと井関農機の2社間で、上述した頻出キーワードの件数を比較したものです。いずれも、「自動」「遠隔」といったキーワードは共通で、「農業機械の遠隔または自動運転」の技術開発で競っている様子が窺えます。

両社の特徴に目を向けると、クボタは「衛星」「マップ」や「障害」「判定」「推定」といったワードが多く、GPS等で自律的に障害等を判定して動く装置のイメージです。

一方、井関農機は「遠隔」「センサ」というワード、「コンバイン」「トラクタ」といった具体的な農業機械、「刈取」「移植」「植付」といった作業内容のワードが多く、個別の農作業を遠隔操作で実施するイメージです。

もちろん、これらはマップだけを見た”イメージ”に過ぎないので、精度を上げるには、やはり個別の特許を読み込むことが欠かせません。

こぼれ話:ブルーオーシャンのための「特許戦略キャンバス」

上記のような各社比較は、複数の企業間でも可能です。たとえば下図のように折れ線グラフにすれば、誰がどの技術に強いか一目瞭然になります。

これを踏まえて必要なのは、「わが社は今後、どの技術にフォーカスすべきか?」の判断です。

経営戦略の教科書として有名な「ブルーオーシャン戦略」(W・チャン・キム、レネ・モボルニュ著 )でも、同様のグラフなどを利用した「戦略キャンバス」というフレームワークを通じて、特に「やらないこと」を明確に意識することの重要さを、実例を交えて説いています。

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筆者は以前から、上記のような特許情報を利用したフレームワークを「特許戦略キャンバス」と称して、戦略思考を育てるツールとして推奨しています。(キム先生、モボルニュ先生、パクッてゴメンナサイ・・・リスペクトしてます!)

具体的な特許をピックアップ~クボタ「作業機」

最後に、具体的な特許をピックアップして、中身を確認しに行きます。

どんな特許をピックアップするか、ここに至っては「目的次第」「お好み次第」です。

マジメに技術分野の動向を追いたいならば、トップ企業の代表的な特許(たとえば被引用件数の多いものなど)を見るのがよいでしょうし、何らかのヒントが欲しければ、むしろ下位グループにいる企業の独特な特許を眺めた方が良いかも知れません。

ここでは、筆者の単なる”好み”で、目に付いたクボタの「作業機」に関する特許をピックアップします。

要約は以下の通りで、障害物を検知しながら自動走行する田植え機の発明です。

この特許には図面が多用されており、たとえば自動走行中に表示される「ディスプレイ」の例として、以下のような図があります。乗用車の自動運転機能を凌ぐような、高度かつ親切な機能が搭載されているようです。

筆者も、親戚の田植えを手伝ったとき、田植え機を運転したことがありますが、なかなか大変でした。このような自動運転機能がついていれば、作業が楽しくなるかも?

以上、今回は知らない技術分野を調査する方法について、特許分類からブレイクダウンする特許分析について解説しました。

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えがちゃん
えがちゃん
「ゆめ知財」の主宰者
「さきよみBENRISHI」のえがちゃんです!弁理士ですが弁理士らしい仕事はせず、知財系ライター、知財系プランナー、知財系コンサルタントとして、日々活動しております。30年余りのメーカー勤務を経てフリーランスに。知財だけでなく、会社生活、産学連携、中小支援、地方創生、森林活用などなど、色々な夢や悩みを、カフェ気分で気軽に語り合いましょう!
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