おもしろ特許~「瞬間移動」
今回は、「瞬間移動」または「テレポーテーション」に関する特許を見てみましょう。
これも、少なくとも現代では実現不可能なので、特許にならない典型的なカテゴリですが、それでも特許を出願する人がいます。
「瞬間移動」がタイトルに含まれる特許
「瞬間移動」または「テレポーテーション」をタイトルに持つ特許を検索すると、9件ヒットしました。
「チャレンジャーなひとが9人もいるのか~」と思いましたが、さにあらず。なんと、3件は登録になっていて、割と有名な大企業が特許を出していたりします。
いわゆる「量子コンピュータ」という未来のコンピュータにつながる技術で、「量子テレポーテーション」というものがあります。筆者は素人なので詳しくは理解してないのですが、少なくともちゃんと科学的な理論の裏付けがあるので、特許になり得ると言えます。
なお、仮想現実やゲームの世界では、現実では無理な架空の技術でも実現可能なので、そうしたことに関するIT技術やゲームプログラミングに関しては、特許になり得ます。
特許として認められない「瞬間移動」
一方、当然ながら、特許にならない「瞬間移動」もあり、例えば下図のようなものが典型です。(ちなみに、J-PlatPatで検索すると、使ったキーワードが自動的に黄色や緑色などでハイライトされます。)
これは、地球を瞬間移動させるという、なかなか壮大な発明なのですが、結論としては実現不可能なので、特許としては認められておりません。
「瞬間移動」に対する特許庁のアクションは?~拒絶理由通知
一般の人ならば、「そんなの無理」「特許になるはずないよ」と否定してしまえば終わりです。
しかし、特許庁というのは、どんな特許が申請(出願)されて来ても、むやみに怒ったり粗末に扱ったりせず、きっちりと対応します。特許にならない理由を、法令に基づいて冷静かつ客観的に判断し、出願して来た人に返すことになっています。
これを「拒絶理由通知」と言い、「なぜ特許にならないか」が詳しく記載されています。逆に言えば、これを見れば「特許になるための条件」が分かります。この「拒絶理由通知」は、誰でもJ-PlatPatで閲覧できます。
判断基準その1~「実現可能」かつ「明確」なこと
判断基準のひとつが、その発明が「実現可能」かつ「明確」かどうかです。簡単に言えば以下の通りです。
- 現時点で実現されていること(単なる願望でないこと)
- どうやったら実現できるかの具体的な手段が記載されていること
- 普通の技術者ならその特許(明細書)を読めば実施(再現実験)できること
上記の例の場合、以下のような拒絶すべき理由が示されています。
判断基準その2~「自然法則を利用」していること
もうひとつの判断基準が、「自然法則を利用」しているかどうかです。本件では以下のような拒絶理由通知が出されています。
ちょっとマニアックになりますが、ここに記載されている「特許法29条1項柱書」には、以下のような表現があります。
産業上利用することができる発明をした者は、~その発明について特許を受けることができる。
そして、この発明については、特許法2条にて、以下のように定義されています。
この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
要するに、この「発明」に該当しないので特許にならない、ということです。それを、法律に基づいて、丁寧に説明するとこういうことになります。
もっとも、特許として認められるには、これだけじゃ足りず、「今までに無い新しいものであること(新規性)」「簡単に思いつかない斬新なものであること(進歩性)」といった重要な条件があるのですが、これはまた別の機会に触れてみたいと思います。