今回は、無料の特許データベース「The Lens」について、簡単に触れてみたいと思います。
「The Lens」とは
The Lensは、非営利団体Cambia(オーストラリア)が運営する、特許・学術論文・各種データ等を網羅した、無料利用できる巨大データベースです。
Wiki的な取り組みによって運営されているようですが、WIPOや大手財団等が様々な形で支援しており、日々進化している状況です。
とりわけ、マクロからミクロまでの統計分析、特にそのビジュアル化という機能面では、有償の特許データベースをも凌駕しつつあるのでは、と感じるところです。
ただし、日本語インターフェースが不十分なため、日本特許調査のメインエンジンとして利用するには、未だ少し難があります。
以下、例えばマクロな特許動向調査として何ができるか、概観してみます。例として、国際特許分類「A01」(農業;林業;畜産;狩猟;捕獲;漁業)につき、過去20年間の特許公報(公開、登録)を対象にします。公報数で約150万件、ファミリー数で約82万件がヒットします。
件数推移(グローバル)
統計分析では様々なグラフ表示が可能です。以下はデフォルトで表示される公報件数の時系列変化です。この技術分野は、グローバルに右肩上がりを続けてきましたが、ここ近年は頭打ちの兆候が見られます。
件数推移(国別)
中国は下図の通り。グローバルの傾向と同様で、この中国の影響が多大であることが分かります。
2番手は米国。件数規模は中国の5分の1程度。徐々に右肩上がりでしたが、やはり頭打ちの傾向が見て取れます。
3番手は日本。件数規模は米国のさらに半分程度。しかも右肩下がりです。いわゆる特許5大国の中では、日本だけが右肩下がりです。
4番手は韓国。右肩上がりで、日本は追いつかれつつあります。
5番手は欧州。緩やかな右肩上がりです。
6番手は国際特許出願。国ではありませんが、公報の種類として統計データに挙がっています。これも右肩上がりです。
件数ランキング
上図は過去20年、下図は2020年以降のランキングです。特に近年、圧倒的に中国がシェアを占めていることが分かります。
上位出願人
上図は過去20年、下図は2020年以降の上位出願人です。上位は欧米勢が占めており、中国の出願数が圧倒的であるにも関わらず、中国の出願人がそれほど上位には来ていないことが分かります。ここから、中国は出願人の数は非常に多いものの、各出願人毎の件数がそれほど多くないことが分かります。
なお、2020年以降に上位に来ている中国出願人はいずれも大学で、企業の姿は見えません。また、下図は華南農業大学の出願国ですが、ほぼ国内出願のみに限られ、これは中国における他の出願人にも共通の傾向です。
被引用件数
The Lensが便利だと思うのは、被引用件数が自動的に統計分析されて表示される点です。下図は2020年出願以降の特許出願に関する被引用件数ですが、油圧装置等のカップリング装置に関する発明の被引用頻度が高いことが分かります。
The Lensの活用について
筆者がThe Lensに期待する役割は、各技術分野のマクロな動向を見ることで、その分野をどのように攻略すべきかのヒントにしたい、ということです。
単純には、右肩上がりか右肩下がりか、出願人の顔ぶれは同じか変化があるか、国別の動向に特徴はあるか否か、などです。
深掘りしていくには、各出願人個別の動向を詳細に把握することになり、まだ全文収録に乏しいThe Lensでは不足の面があるかと思われます。しかし、それも次第に克服されていくので、いずれは、多くがThe Lensのみで事足りる時期が来るのでは、とも期待している次第です。