テーマ別の特許動向を、Fタームの5桁で構成されるテーマコード毎に俯瞰する試みをしています。
今回は、テーマコード:2B025「潅水」。
潅水とは、農作物や草花に水をあげることです。人手で行う場合や、ビニールハウスで自動的に散水するものなど、いろいろな手段があります。
2012年1月1日以降の約10年間に出願された特許及び実用新案が対象。J-PlatPatにて973件がヒットしました(2022年7月19日現在)。
頻出キーワード
ユーザーローカル社のサイト「AIテキストマイニング」を利用して、発明の名称および要約の頻出キーワードをクラウド表示したものです(下図の内、最初の図が発明の名称、次の図が要約)。名詞、動詞、形容詞は色分けされています。
また、最近の動向に着目するため、2021年1月1日出願以降分のみをピックアップしています(2022年7月19日現在)。
「圃場」(ほじょう)というワードは、門外漢の筆者には見慣れませんでしたが、一般に農作物を育てる場所のことです。水田、畑、牧草地、果樹園など、植物を育てる場所を総称する用語です。
出願件数推移
出願件数の出願年毎の推移です。2020年出願分は全て公開されているはずなので、それ以前の経変変化は確定データとなります。
2020年で落ち込んでいますが、そこまでの出願件数は維持傾向と言えます。クボタグループがトップで、エンプラス、積水化学工業、パナソニックが上位という顔ぶれは余り変わらないようです。
出願件数ランキング
株式会社クボタは、筆者のような古い人には「久保田鉄工」で有名な老舗企業。今や、農業や建設機械にも進出し、「下町ロケット」でも有名になったように、農作業のソリューションなどを手掛ける企業に変身を遂げております。
株式会社エンプラスは、プラスチックの成形加工メーカーで、最近では液晶やレンズなどの半導体や光学部品への業務拡大が目立ちます。
積水化学工業株式会社は、プラスチック製品の総合メーカーで、住宅や医療まで、非常に幅広い事業分野を抱える大手企業です。
出願人×キーワード相関
出願件数上位であるクボタと積水化学工業の2社について、要約をテキストマイニングして比較したものです。
本テーマでは、クボタによる出願が多いため、切り出されたキーワードもクボタに特有のものが多く、下図ではあまり良い特徴比較とはなっていません。各社に特有の特徴語を見るには、もうひと工夫必要なようです。
ピックアップ(1)~農作物栽培システム
以下、筆者の独断と偏見で2件をピックアップ。まずは、台湾企業である台鼎國際科技股份有限公司による農作物栽培システムに関する発明。
この会社は、ハウス栽培に関する制御システムを手掛けているようで(台湾語または中国語のGoogle翻訳なのであまり正確ではない)、本発明は、温度や日照に応じてハウスの屋根を開閉したり潅水をコントロールする発明になっています。
ピックアップ(2)~植物用栄養分補給装置
次は、エム光・エネルギー開発研究所による、撥水性の多孔膜を利用した植物への栄養分補給をコントロールする装置に関する発明です。
この会社のホームページを見ると、個人の研究者が立ち上げた会社のようで、再生可能エネルギーに関する発信を精力的に行われているようです。
本発明は、撥水性の多孔膜に圧力を可変で与えると薬液の注入量をコントロールできるという点に特徴があり、出願時は、医療デバイスと植物用栄養分補給装置、大きくふたつの発明が記載されておりました。
審査においては、このふたつの発明は異なるもの(正確には「単一性の欠如」という)と判断され、途中で分割されて別々の出願になっております。明細書を見ると、医療デバイスの記述がそのまま残っているため、一見して分かりづらいのですが、後半に少しだけ、植物用栄養分補給装置に関する記載があります。
結果的に、この栄養分補給装置に関しては事実上、審査無しで登録になっており、クレーム(請求の範囲)の構成も意外とシンプルなので、目の付けどころの良さとしては参考になる特許と思われます。