引き続き、IPランドスケープに期待される「将来予測」について。今回は、「早期に引用された特許」について、です。
早期に引用される特許の意味合いとは?
以前の記事「引用された特許の価値~特許価値指標としての被引用件数」では、いわゆる被引用特許の価値などについて触れました。
多くの後発特許に引用される特許は、いわゆる基本特許といって、その技術分野では色々な意味で注目される存在になります。
通常、基本特許と言うのは、その技術分野が盛り上がる前、いちばん最初に出される特許ですから、そんなに早く注目されることはなく、市場拡大や技術進展に従って、徐々に引用回数が増えていく、という経過を辿ります。
しかし、注目度が高い新技術の場合、複数メーカーが同時期に似たような特許を出し、いち早く登録しようという”競争”がおきることがあります。
出願から間もなく引用されている特許というのは、その争いの中、いち早く抜け出した特許ということができます。
早期に引用される特許があるということは、その技術分野が直近で盛り上がっており、これから成長する可能性を指し示すバロメータ、と考えることもできるかと思います。
いち早く出願することの意義
当然ながら、似たような技術であれば、先に出願した者が権利を獲得するのが、特許法のルールです。
それが、先の出願を全く知らずに独自に発明したものだとしても、また、わずかに遅れただけだとしても、後に出願した者には何ら権利は与えられない、という厳しいルールです。
以下は、先に紹介した包装材やダンボールに関する事例です。2019~2020年に出願された、王子HD・レンゴー・日本製紙の特許を対象にしています。
これと同じ時間軸で、引用されている案件だけを示したのが下図です。王子HDのものだけが引用されています。
そして、いちばん最近で引用されているのは、2020年5月に被引用を2件もっている王子HD特許6939976号になります。このグラフは2020年12月までですが、それ以降、2022年6月時点まで、被引用を持っている特許はありません。
この特許は、ヒートシールに関するもので、片面は紙、片面はヒートシール性を有する樹脂組成物で出来た、熱をかけてシールすることができる包装紙に関するものです。
この王子HDによる特許の優先日は2022年5月27日ですが、これより約2か月後、2022年7月28日に、日本製紙がほぼ同じ構成の特許を出願しております。
今後の審査次第ですが、日本製紙は不利な立場です。わずか2ヶ月の遅れ。いろんな実験をせねばならない素材系の発明では、簡単に経過してしまう期間です。
以前の記事ではマスクの特許に関する話題にも触れましたが、このように動きの早い技術分野に如何に即応するか。大きな会社ほど、永遠の課題かと思われます。