前回に引き続き、世界の特許情報について、もう少し見てみましょう。
使うのは、同じく「特許行政年次報告書」のデータです。
https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2021/
各国の出願件数・登録件数の割合
2019年に世界中で出願された件数が約322万件、登録された件数が約150万件です。
その中、各国に出願された件数、および、各国で登録された件数は、以下の円グラフまたは棒グラフの通りです。
これを見ると、「やっぱり中国はスゴイなあ」と思ってしまうのですが、果たして、そんなに単純なものでしょうか?
自国民 vs 他国民 ~ その国で特許を取る魅力とは?
以下のグラフは、自国民による出願件数(橙色)と、他国民による出願件数(灰色)の比率を、国別に表したものです。
これによると、中国における出願は、圧倒的に中国人(正確には中国内に居住する人や企業)によるものが多いことが分かります。一方、米国や欧州における出願は、他国民(正確には米国や欧州に居住しない人や企業)によるものの方が多いです。
一般的には、その国で特許を取る魅力が高いほど、その国における出願件数は増えるはずです。特に、他国民による出願件数が多いほど、その国の魅力度が高い、つまり、その国で特許を持つメリットが大きいことを示す、と考えられます。
実際、中国における他国民による出願は約16万件なのに対して、米国においては約34万件、両国における出願件数の違いを勘案すれば、他国民にとって、米国は中国よりも4~5倍ほど魅力的(特許を持つメリットが大きい)、と言えるかも。ちょっと極論かも知れませんが・・・。
ちなみに、登録件数については、以下のグラフの通りです。出願件数と大きな傾向の違いは無さそうです。
自国民 vs 他国民 ~ どちらが特許を取りやすい?
以下のグラフは、出願件数に対する登録件数の割合を、国別に表したものです。特に、自国民による出願(青色)と他国民による出願(水色)、どちらが登録されやすいか、目安を見ようと思って作成したものです。
これを見ると、平均して、他国からの出願の方が登録されやすいかも知れない、という予想ができます。(ただし、このデータでは、出願された特許と登録された特許は別物であることに要注意。つまり、登録された特許はそれより数年以前に出願されたもの。厳密ではないが目安にはなりそう、という程度。)
特に中国では、自国民よりも他国民の方が倍ほど登録されやすいように見え、他国民を優遇しているのか?、と思えるほどです。一方、米国では若干ですが自国民による登録の方が優勢です。
各国の政策と知財戦略のあるべき姿とは?
こういった傾向には、各国における特許政策も影響しているかも知れません。外国からの資本を呼び込みたければ、外国企業による特許出願を優遇することは、あり得るかも知れません。
一方、特許審査基準は、国際的にかなり統一されて来ているはずで、各国の政策によるブレなど、本来あるべきではない、とも考えられます。
しかしながら、知財戦略という観点では、ありのままの現実を受け入れた上、対策を練ることも必要かも知れませんね。