「切り餅」事件についての続きです。前回までは、特許紛争への対処方法などが中心でした。
今回は、そもそも、「どうしたら争わずに済んだのか?」について、簡単に考察してみたいと思います。
争いに至る場合
「特許を踏む側」と「特許を踏まれる側」、それぞれの論理について、改めて整理してみます。まず、両者の立場は、以下の通りです。
ここから、争いに至る場合は、以下のような対応となります。
以上が、これまで触れてきた内容です。
争いに至らない場合
一方、争いに至らないための対応、というのも当然あります。結論から言えば、以下のような対応となります。
モラウ・ユズル
「セメル」「ゴネル」というのは、争いに至りがちな行為ですが、そこを発想転換して、グッとこらえて和解に持ち込むか、いっそ協業の話にしてしまう、「モラウ」「ユズル」という手段です。
”ゴネル”の過程では、相手の弱み(特許に問題があるなど)に付け込むことになりますが、むしろ最初から、「協業」を念頭に交渉を申し入れる。相手の特許に対する敬意が求められる。クロス・ライセンスや特許を共有する場合もある。
”セメル”の過程では、自分の弱み(特許に問題があるなど)に付け込まれないように、ということになるが、むしろ「協業」のきっかけと考えての交渉に転換する。相手の事業や技術に対する敬意が求められる。上記と同じく、クロス・ライセンスや特許を共有する場合もある。
お互いの特許、事業、技術に対して、お互いに敬意を抱いて注目していれば、争うという発想にならず、もっと前向きなアイデアが出てくるのではないか。筆者はそう考えます。(青臭いと言われるかもしれませんが・・・もうかなりのオッサンなんですが・・・)
顧客の立場からも、より前向きな新商品が出てくる可能性も高まるので、より好ましい方向かと思われます。(BtoBで二社購買の場合、相見積もりを取りたい二社が組むというのは、複雑ではありますが・・・)
サケル・マモル
一方、そもそも、「特許を踏まない・踏ませない」というのが、本来あるべき姿かと思います。要するに、「サケル」(避ける、特許侵害を事前回避)と「マモル」(守る、特許侵害の事前防止)です。
しかし、これらの対策には、少し消極的な響きがあります。「特許を踏まれる側」を先発メーカー、「特許を踏む側」を後発メーカーとした場合、そもそもメーカーとして、新たな技術や製品を次々と開発する、といった行為が本分と考えます。
そういった視点で、「サケル」「モラウ」を考えると、以下のようなことになるかと思われます。
後発メーカーとして、相手の特許をちょっと外しただけの”姑息”な技術開発ではなく、自社の本来の強みや社会的な価値を改めて振り返ることで、自社「ならでは」の独自技術・独自製品の新たな開発に挑戦する。それが結果的に”サケル”(特許侵害の事前回避)にもなる。
先発メーカーとして、特許ひとつで安心するのでなく、その技術や製品の本質を見極め、その応用展開の可能性を掘り下げることで、技術・製品のバリエーションを次々と生み出すことに挑戦する。それが結果的に”マモル”(特許侵害の防止)にも繋がる。
争いから「共創」へ
以上、特許の争いが、ちょっとでも前向きな話になるように、と思って述べましたが、まだ物足りなさが残ります。
それは、前回も触れた通り、「顧客への提供価値」です。この視点が無ければ、所詮は自社と競合の関係だけしか見えなくなり、本当の意味で価値ある技術や製品の開発には至らないのでは、と考えます。
そういった意味では、上述のような「サケル」「マモル」に留まらず、新たな価値の「共創」、という段階に至るのが望ましいのでは、と考えます。
また、さらに踏みこんで、そうして研究開発した技術や製品を、オープン・クローズ戦略の中でどのように利用するか? ということも、重要な課題になるかと思われます。
いずれ、そういったことについて触れてみたいと思います。