「判例を検索するには?」の記事で、いわゆる「切り餅」事件について触れましたが、関連する裁判例について、経過だけですが、ちょっと詳しく見てみましょう。
「切り餅」事件とは?
本件は、越後製菓がサトウ食品(当時は佐藤食品工業)を特許侵害で訴えた事件です。要するに以下の通り。
- 越後製菓は、直方体の側面に切り込みがある餅の特許を保有。
- 佐藤食品は、直方体の側面に切り込みがあり、かつ、上面にも切り込みがある餅を製造販売。
- 越後は、側面に切り込みがある佐藤の製品は、越後の特許を侵害すると主張。
- 佐藤は、越後の特許には「載置底面又は平坦上面ではなく・・・側周表面に・・・切り込み部又は溝部を設け」とあり、上面に切り込みがある佐藤の製品は非侵害と主張。
下図は、判決文からの引用です。
「切り餅」事件の判例群
改めて、「切り餅」事件に関する判例は、下図の通り9件あります。
この事件は、基本的には、越後製菓と佐藤食品、二社間の争いですが、越後の持つ特許の有効性を巡って、他の食品メーカーも参戦しています。分類すると以下の通り。
- 特許権侵害に関する訴訟:4件
- 特許の有効性に関する訴訟(佐藤食品が提起):3件
- 特許の有効性に関する訴訟(佐藤食品以外が提起):2件
特許権侵害に関する訴訟
上記の内、特許権侵害に関する訴訟の内訳は、以下の通りです。ほぼ、越後の完全勝利という結果です。
- 平成22年11月30日判決 特許権侵害差止等請求事件(東京地裁・平成21(ワ)7718)
- 越後が佐藤の特許侵害を訴え
- 佐藤は越後の特許(特許第4111382号)を侵害しないと判断(佐藤が勝訴)
- 平成23年9月7日判決 特許権侵害差止等請求控訴事件・中間判決(知財高裁・平成23(ネ)10002)
- 越後が地裁判決を不服として控訴
- 佐藤は越後の特許を侵害すると判断(越後が逆転勝訴)
- 佐藤は製造販売等を止めるべき旨を判断(損害賠償は最終判決にて)
- 平成24年3月22日判決 特許権侵害差止等請求控訴事件(知財高裁・平成23(ネ)10002)
- 佐藤は越後に対して損害賠償すべき旨を判断(越後が勝訴)
- 損害賠償金額は8億275万9264円
- 平成27年4月10日判決 損害賠償等請求事件(東京地裁・平成24(ワ)12351)
- 越後が佐藤の特許侵害を追加で訴え(上記判決に含まれない特許侵害品につき)
- 上記判決と同じく越後が勝訴
- 追加の損害賠償金額は7億8277万8332円
特許の有効性に関する訴訟(佐藤食品が提起)
特許権侵害に関する訴訟と並行して、「そもそも越後の特許(特許第4111382号)なんて無効だ!」といった佐藤による訴えが、並行して提起されております。その内訳は以下の通りです。こちらも、越後製菓の3連勝となっております。
- 平成23年9月7日判決 審決取消請求事件判決(知財高裁・平成22(行ケ)10225)
- 佐藤が越後の特許は無効と訴え(無効2009-800168)
- 争ったのは「明確性」「サポート要件」「実施可能性」「新規性」「進歩性」
- 無効審判では越後の特許は有効と判断(越後が勝訴)
- 佐藤が上記審決を不服として上訴
- 上記審決は覆らず(越後が勝訴)
- 平成25年12月24日判決 審決取消請求事件判決(知財高裁・平成25(行ケ)10106)
- 佐藤が越後の特許は無効と訴え(無効2012-800072)
- 争ったのは「明確性」「実施可能性」「進歩性」
- 無効審判では越後の特許は有効と判断(越後が勝訴)
- 佐藤が上記審決を不服として上訴
- 上記審決は覆らず(越後が勝訴)
- 平成26年4月9日判決 審決取消請求事件判決(知財高裁・平成25(行ケ)10282)
- 佐藤が越後の特許は無効と訴え(無効2012-800213)
- 争ったのは「同一出願(先願)」「実質同一出願(拡大先願)」
- 無効審判では越後の特許は有効と判断(越後が勝訴)
- 佐藤が上記審決を不服として上訴
- 上記審決は覆らず(越後が勝訴)
特許の有効性に関する訴訟(佐藤食品以外が提起)
越後と佐藤の争いと並行して、同じく餅を製造販売する別のメーカー達が、同じく「越後の特許は無効だ!」といって訴えておりました。その内訳は以下の通りです。こちらも、いずれも越後製菓の勝利に終わっております。
- 平成25年11月12日 審決取消請求事件(知財高裁・平成25(行ケ)10061)
- たいまつ食品/マルシン食品/丸一オザワが越後の特許は無効と訴え(無効2012-800039)
- 対象となったのは特許第4111382号(佐藤が無効を訴えた特許と同じ)
- 争ったのは「発明未完成」「実施可能性」「明確性」
- 無効審判では越後の特許は有効と判断(越後が勝訴)
- 佐藤が上記審決を不服として上訴
- 上記審決は覆らず(越後が勝訴)
- 平成25年11月12日 審決取消請求事件(知財高裁・平成25(行ケ)10062)
- たいまつ食品/マルシン食品/丸一オザワが越後の特許は無効と訴え(無効2012-800040)
- 対象となったのは特許第4636616号(上記特許から分割された特許)
- 争ったのは「発明未完成」「実施可能性」「明確性」
- 無効審判では越後の特許は有効と判断(越後が勝訴)
- 佐藤が上記審決を不服として上訴
- 上記審決は覆らず(越後が勝訴)
争いの顛末に対する所感
この「切り餅」事件の顛末については、検索すればたくさんヒットしますし、いろんな方々がいろんな切り口で言及されているので、ここではこのくらいにしておきたいと思います。
ただ、一連の経過を見ていると、今で言うIPランドスケープ的な視点、特に、顧客視点のビジネスモデルに考えが及んでいれば、また異なる展開があったのではなかろうか、という思いがあります。機会があれば、そういったことにも触れてみたいと思います。