【特許の歴史】専売特許条例~日本初の特許法制
日本における特許法は、いつ頃に制定されたのでしょう?
現行の特許法は「昭和三十四年法律第百二十一号」となっており、昭和34年(1959年)に制定された法律の改正法として現在まで続いています。(e-Gov法令検索より)
しかしそれ以前、明治の初めころから、特許制度の萌芽は存在していました。以下、それについて概観してみましょう。
専売略規則の布告
明治期の新聞記事を集めている「明治ニュース事典」(第1巻、410頁、毎日コミュニケーションズ発行)によると、明治4年(1871年)には以下の通り、「専売略規則」という特許法の前身となる規則が布告されています。ただし、この記述からすると、この規則はあくまで暫定措置で、いずれ正式な法律の制定が念頭にあったようです。
発明品に専売制(明治4年4月9日、太政官日誌)
何品によらず、新発明致し候者は、爾来専売御差許し相成候間、府藩県管下に於て願人これある節は、別紙規則に照準し、当分の内、民部省へ伺出ずべき事。
しかし、正式な法制度となる専売特許条例の施行は、これから随分遅れて、明治18年(1885年)まで待つことになります。この遅れについては、当時の自由民権運動において明治政府を糾弾する論陣を張っていた東京曙新聞の記事があります(「明治ニュース事典」第1巻、410頁)。現代語に翻訳して抜粋・要約すると、およそ以下の通りです。今でいう社説のようなものかと思われ、特許の法制化が一時期トーンダウンしていたことが窺えます。一方で、学問に関する図書蓄積や著作権の保護などは、特許保護の動きよりもかなり先に進んでいた模様です。
実施急がる(明治8年9月29日、東京曙新聞)
特許を保護する仕組みが必要なことは世論でも随分取り沙汰されてきたが、今日に至って議論が途絶えてしまっている。国が開化・進歩するには、学問と技術が車の両輪や鳥の両翼のように並び進むべきであり、その一方に偏るべきではない。しかるに我が国の現状を見れば、技術の進歩は学問の進歩に遠く及ばない。日本人民が自ら起業する精神に乏しいためでもあるが、政府がそれを保護しないためでもある。そのような保護を草創するのは至難で費用も避けられないが、政府の力が無くして個人の力で負担することは困難である。著書出版については、すでに内務省が管轄し、出版条例により著述者への保護があることで盛大となっている。専売特許法が設けられないことが、数多くの発明が盛大とならない理由であることは否定できない。
一方、日本で特許が法制化されるまでの間、わざわざアメリカで特許を取得する発明家もいたようです。例えば、花火製作者の平山甚太氏が、欧米人に評判を得た花火を米国で商品化するに際して米国特許を得た旨の記事があります(「明治ニュース事典」第3巻、440~441頁)。
面白いことに、この特許はGoogle Patentsで検索できます。1883年(明治16年)3月15日に出願、同年8月7日に登録、特許番号はUS282891です。
そんな古い特許がデジタル化されているのは興味深いですね。実は、日本の古い公文書類もデジタル化が進んでおり、国会図書館デジタルコレクションや国立公文書館デジタルアーカイブなどで検索も可能です。全文検索も可能で、OCR技術の進歩には目を見張るものがあります。ただし、テキストデータで提供されているものは未だ少ないようです。
専売特許条例の施行
その後、明治16年に至ってようやく、以下の通り法律制定の動きが見られます(「明治ニュース事典」第3巻、440頁)。条例の草稿がようやく出来上がった段階です。
条例諮問会を開く(明治16年1月24日、東京日日新聞)
かねて風聞ありし専売条例は、いよいよ稿成りて、このほど工務局長より農商務卿へ差し出されしを以って、同卿より各局長へ諮問せらるべき件これあるに付き、(中略)草案一冊ずつを配附せられしと云う。
そして明治18年(1885年)、以下の通りようやく、専売特許条例が公布されます(「明治ニュース事典」第3巻、441頁)。公布は4月18日、施行は7月1日です。同時に、先の専売略規則は廃止されています。まだ内閣発足直前の頃で、当時の政府最高位である太政大臣名で公布されていますね。三条実美、松方正義といった歴史上の有名人が特許関連の文書に名を連ねているのは興味深いです。
条例、公布される(明治18年4月18日、官報)
専売特許条例、別冊の通り制定し、明治18年7月1日より施行す。
ただし、明治4年4月7日布告専売略規則及び明治5年3月第105号布告は廃止す。
右、勅旨を奉じて布告候事。
明治18年4月18日
太政大臣公爵 三条実美
農商務卿伯爵 松方正義
こうして、日本の特許制度はようやく船出を果たし、殖産興業・富国強兵に向かって進んでいくことになります。
今回は、日本における特許法の曙である専売特許条例が公布・施行される前後の状況についてご紹介しました。
Views: 0