筆者がIPランドスケープの必要性を感じたきっかけのひとつに、「優れた技術が優れた商品になるとは限らない」「技術と商品の評価は異なる」ということがあります。
分かってる方には「そんなの当たり前でしょ?」と言われるかもしれませんが、意外となかなか・・・
そこで、筆者の経験で感じたことを、何回かに分けて触れていきたいと思います。
「技術」と「商品」を取り巻く環境
あまり生々しい例を挙げるのも何なので、すごくボカかした架空の事例を。
A材料を使ってB形状を有するフィルターを製造する技術(自社技術)を持っているメーカーが、その技術でもってフィルターを製造販売(自社商品)している事例です。ここでは、不純物の除去効率が高いことが”売り”です。
一方、世の中には、自社技術に対する競合・代替技術があり、また、自社商品に対する競合・代替商品があります。加えて、それら技術・商品を利用したサービスも考えられます。すべてを示すと下図の通りです。
技術的な差別化への過信
自社は、自分たちのA材料とB形状、すなわち自社技術が、競合のX材料やY形状より優れており、差別化するポイントと認識しております。
確かに、技術においては両社に違いはあります。しかし、商品においてはどうでしょうか?例えば、材料などが違っても、結果的に商品の性能はあまり違わない、ということは無いでしょうか?
もし、商品の性能が違わない場合、技術において差別化できていても、商品において差別化できていない、ということになります。
そうなると、とても苦労して開発した自社技術で得られた自社商品が、大して苦労せずに開発されたかも知れない競合技術で得られた競合商品と、単なる価格競争に陥ってしまう、ということになり勝ちです。
研究開発の落とし穴
こういったことは、いわゆる「モノづくり」を重視してきた日本のメーカーには、あり勝ちかと思われます。特に素材系や成形加工系のメーカーは(筆者もその系統の会社に勤務していますが)、独自技術への”幻想”みたいなものがあるような気がしています。
本件で言えば、例えば、市場を獲得する鍵は本当に除去効率なのか、それに対して自社技術が本当に役立っているのか、結果的に自社商品が本当に差別化できているか、いう順番で、事実に基づいて冷静かつ客観的に判断すべきかと思います。
ところが、自社技術を使えばフィルターを作れる、自社技術は他社とは違う、自社商品は技術が他社とは違うから売れるといった、とても粗い判断で、研究開発に”突入”する様子をよく見掛けます。
これは極端な例と言えるかもしれませんが、研究開発への意気込みや熱意のあまり、自社視点でしか物が見えなくなり、事実を軽視して冷静さや客観性を欠いてしまう。実は、それは無理もないことなのではないか、と考えています。
筆者も目下、自らテーマを立ち上げて推進しているので、その気持ちはとてもよく理解できます。もっと言えば、嫌な事実は見たくない。それが正直なところです。IPランドスケープを推進してきた自分自身がそのような状態になる。とてもツラい状態ではあります。
そうした事態に陥らぬよう、事実に基づいて冷静かつ客観的に判断する材料を如何に提供できるか。研究開発を推進する人々に如何に伴走し、抱える苦悩を如何に解決するために何ができるか。
それが、IPランドスケープに課せられた重要な使命、と筆者は考える次第です。