テーマ別の特許動向を、Fタームの5桁で構成されるテーマコード毎に俯瞰する試みをしています。
今回は、テーマコード2B029「温室」。
2012年1月1日以降の約10年間に出願された特許及び実用新案が対象。J-PlatPatにて1612件がヒットしました(2022年7月27日現在)。
ただし、このテーマには複数の技術分野が混在しているため、もう少し細分化してみたいと思います。今回は、積層体(特許分類FIではB32、132件)に着目します。
積層体と言うだけだと色々なものが思い浮かびますが、ほぼフィルムと考えて良いと思います。
頻出キーワード
「温室」と「フィルム」から想像できる通り、ビニールハウスに使用する素材に関するキーワードが多く出現しているように見えます。
※ユーザーローカル社のサイト「AIテキストマイニング」を利用して、発明の名称および要約の頻出キーワードをクラウド表示したもの(上図が発明の名称、下図が要約)。名詞、動詞、形容詞は色分けされている。
出願件数推移およびランキング
上位は、三菱ケミカルと住友化学の旧財閥系が占めているようです。
もっとも、毎年の出願件数は少なく、また、2017年をピークに急減しているため、少なくとも現時点では、技術開発競争が活発な分野とは言えない可能性があります。
※出願件数の推移は出願年毎に表記。2020年出願分は全て公開されているはずなので、それ以前の経変変化は確定データ。
出願人×キーワード相関
上位メーカーが決まっている分野の場合、頻出するキーワードがある程度決まっていて、各社でバラエティに富まない傾向がありますが、この分野も同様に見えます。
この中、光学的な特徴に関するキーワードに絞ると、多少は傾向が見えるかと思われます。温室のフィルムについて「透明性」や「透過性」は当たり前だと思われ、その特徴を限定するために「波長」で絞るのも通常だと思われます。
その内、大日本印刷は、反射、散乱、蛍光といったものも含めて、光学特性を広く捉えようとしているように見えます。実際に特許群を見ると、LED光の特性や、反射光や蛍光を生かした植物育成に資するフィルムの発明をラインナップしています。
ピックアップ~タキロンシーアイの特許群
以下、筆者の独断と偏見でピックアップ。タキロンシーアイが2019年に集中的に出願しているので、その中身を少し見てみます。
防曇性、防汚性、防滴性、成形性、光学特性、強度など、温室に要求されるフィルム特性について、フィルム素材と積層構造のバリエーションによって実現しようとする発明群になっています。
刊行物等の情報提供とその効果
その中、ひとつだけ、「刊行物等提出」を受けている出願があります。この「刊行物等提出」というのは、例えば、それが特許登録されると困ると考える競合メーカーが、特許庁に対して先行文献等を提供することができる制度で、よく「情報提供」と呼んでいます。
この出願の中身は以下の通りで、密度の異なる直鎖状低密度ポリエチレンが積層されているという、割と単純な構成。確かに、このような技術的範囲の広い特許が登録されると、困るメーカーは多そうです。
こうした情報提供の有無も、”先読み”(将来予測)のひとつのヒントになる可能性があります。
なお、提供された情報が必ず審査に使われるとは限らず、筆者の印象では、少なくとも直接的には採用されないことの方が多い気がしています。もっとも、拒絶理由をどのように構成するかは審査官の裁量なので、当たり前と言えば当たり前。どちらかと言えば、当の出願人にプレッシャーを与える効果の方が大きいかと思われます。