自分が住んでいる世界は、実は唯一ではなく、同じような世界が並行して存在する、という概念を「パラレルワールド」(並行世界、並行宇宙)と呼びます。
もっぱら漫画・小説の世界で登場する概念で、その実在は証明されていないので、特許的には登録不可能なカテゴリに入ります。
しかし、そんな「パラレルワールド」がクレーム(請求の範囲)に記載され、しかも登録になっている特許が、1件だけ存在します。(J-PlatPatの検索による)
それは、日本電信電話(NTT)が出している、「3次元仮想世界表示システム」というタイトルの特許。1996年に出願されたもので、すでに特許は切れています。
中身は、当然ながらSFの発明ではありません。今で言う「メタバース」、つまり「3次元仮想空間」に関する発明です。一発登録(拒絶理由通知なし)されています。マシンのスペックも不十分だった時代背景もあり、画期的な発明だったのかも知れませんね。
クレームや明細書に記載の文字だけで読み解くのは難解ですが、簡単に言ってしまえば、「メタバースに大勢の人々を違和感なく参加して貰う仕組み」と言えます。
「違和感ってなに?」と思うかも知れませんが、実は、メタバースを構成するには、ひとつのサーバじゃ無理で、複数のサーバを使って、しかも相互に連動させる必要がある、というところに問題点があります。
とにかく扱うデータが大きいので、複数のサーバで分割してデータを持つ必要がある訳ですが、そうすると直面する問題があります。それは、複数のサーバでひとつの仮想空間を表現する必要がある、ということです。
これは意外と厄介です。仮に、ひとつの仮想空間をサーバAとサーバBで表現するとします。どちらも同じ背景をデータとして持ちますが、登場人物は分担するとします。
例えば、ひとつの仮想空間に、登場人物が4名(A1、A2、B1、B2さん)が参加するとします。そして、サーバAはA1さんとA2さん、サーバBはB1さんとB2さん、と分担するとします。実際は、4名は同じ空間に同時に存在します。
もし仮に、サーバAとサーバBのデータ送受信のタイミングがずれた場合、どうなるでしょう?4人が団体行動をとっていたとして、もしサーバAが遅れた場合、A1さんとA2さんだけが突然停止または消滅することになります。または、目の前に突然登場する可能性があります。
これが、上述した「違和感」ということです。本発明では、そのようなことが起こらぬよう、バッファーとなる領域を設けたり、データの通信単位を調節したり、という工夫がなされています。
この発明における「パラレルワールド」とは、上記の事情によって、ひとつの同じ仮想空間がコピーされ、複数のサーバに保存された、その各々の仮想空間のコピーのことを指します。残念ながらSFではありませんでした。
NTTといえば現在、「DOOR」という仮想空間(NTTによれば「XR空間」)のサービスを展開しています。アバターでの参加が基本。各種イベント、施設見学会、街並みや建築物のデジタル再現など、様々な種類の仮想空間が展開されています。
この特許技術が「DOOR」に応用されているかは分かりませんが、満を持して、という感じかもしれませんね。