ビジネスモデル特許の審査基準を読み込む(筆者個人的な)チャレンジの9回目。
今回から、IoT、AI、3Dプリンティング関連技術や、データ構造について(なかなか難しい分野ですが・・・)。具体的には「IoT関連技術等に関する事例について」に記載の事例をピックアップ。
今回は、「発明の該当性」に関して、「〔事例 3-2〕 リンゴの糖度データ及びリンゴの糖度データの予測方法」(p.7)を取り上げます。
本件の概要とビジネスモデル
発明の名称は「リンゴの糖度データ及びリンゴの糖度データの予測方法」。
リンゴは出荷時に「糖度」で等級分けされるので、その収穫前に糖度を予測し、出荷時に目標の糖度に近づけるよう栽培条件等を調整することは、リンゴ農園にとって重要なことです。
ビジネスモデルとしては、需要者(便益を受ける者)がリンゴ農園、と供給者(便益を与える者)が糖度予測を提供する業者、リンゴ情報入力と糖度予測値出力のユーザーインターフェースをオープン、糖度を予測するための方法論(アルゴリズムなど)や糖度データ等を蓄積したデータベースをクローズにしておき、測定回数や定期契約で収益を得る、といったことが考えられます。
発明に該当するか?
本件を下図のように図解。クレーム(請求項)の構成などは分かり易くなるよう、補足や改変をしております。
この事例では、以下がクレーム(特許請求の範囲)として記載されております。
- 記憶部1に記憶される糖度データ
- 送信部からのデータに基づき受信部へのデータを予測する糖度データの予測方法
「データ」は発明か?
この事例における「データ」は「発明に該当しない」という結論です。
審査基準的には、以下のような小難しい表現になっております。
本件では、リンゴの糖度データを取得する手段(「反射式近赤外分光分析を行う携帯型のリンゴ用糖度センサにより計測)は記載されているが、その提示する手段や方法などは何も記載がなく、「果樹に実った収穫前のリンゴの糖度データ」という情報の内容のみに特徴があるので、上記の基準から、”情報の単なる提示”という判断になっています。
なお、「データ」だから即、「情報の単なる提示」とは言えず、そうではない事例は、後日にでもご紹介できればと思います。
「予測方法」は発明か?
一方、「予測方法」については「発明に該当する」という結論です。
理由は「リンゴに関わる化学的性質、生物学的性質等の技術的性質に基づく情報処理を具体的に行うものだから」ということです。
これは、コンピュータソフトウェアの基準を使うまでもなく「発明」だ、という判断です。これについては以前の記事でもご紹介しましたが、改めて以下の基準があります。
- 機器等(例:炊飯器、洗濯機、エンジン、ハードディスク装置、化学反応装置、核酸増幅装置)に対する制御又は制御に伴う処理を具体的に行うもの
- 対象の技術的性質(物理的性質、化学的性質、生物学的性質、電気的性質等の技術的性質(例:エンジン回転数、圧延温度、生体の遺伝子配列と形質発現との関係、物質同士の物理的又は化学的な結合関係)に基づく情報処理を具体的に行うもの
本件は、上記の内、ふたつめの判断基準をとったことになります。メーカーにとっては、複雑なソフトウェアの基準よりも、こちらの方が馴染むパターンかも知れませんね。