ビジネスモデル特許の審査基準を読み込む(筆者個人的な)チャレンジの8回目。
前回と同じく、コンピュータソフトウェア関連の「附属書B」から「ビジネス分野」と記載ある事例をピックアップ。
今回は、「〔事例 3-3〕 ポイントサービス方法」(p.124)を取り上げます。
以前、「ビジネスモデル特許の事例(3)ポイントサービス方法」の記事では「発明の該当性」に着目しましたが、今回は「進歩性」に着目した事例です。
本件の概要
発明の名称は「ポイントサービス方法」。内容は以前と全く同じなので、概要は省略します。
進歩性の判断基準~「当業者」とは?
前回の記事「ビジネスモデル特許の事例(7)伝票承認システム」では、「一般的か否か」「通常か高度か」「当然か顕著か」などを、いわゆる「当業者」の立場から進歩性を判断しました。
この「当業者」とは、特許の世界特有の用語と思いますが、「その発明が属する技術分野における通常の知識を持つ者」という定義があります。簡単に言えば「業界人の常識」みたいなものかと思われます(「当業者の技術常識」と言われることも多いです)。
しかし、この「当業者」というのは侮れない存在で、技術レベルは普通なんだけれども、「その技術分野の出願時の技術水準にあるもの全てを自らの知識とすることができる」という、ある種の”スーパーマン”が想定されています。
この「当業者」はひとりとは限らず、このビジネスモデル発明のように、ポイントサービスの商売をする人とコンピュータの知識を持つ人の組み合わせなど、複数の技術分野の専門家からなる「チーム」も想定されています。
実際の審査では、審査官がその「当業者」に成り切って、進歩性を判断します。
進歩性の判断基準~「引例」に基づく判断
本件を下図のように図解。クレーム(請求項)の構成など、事例は分かりやすいように、かなり改変しております。
ここでは、進歩性の判断基準として、その出願時の技術水準を図るために、その当時に公知であった技術文献などが、引用文献(引例ともいう)として挙げられています。
そして、対象となる発明と引例とは、どこが同じでどこが違うのか、「一致点」と「相違点」を明らかにするところから、進歩性の判断がスタートします。
進歩性がない場合
この事例の内、請求項1については、以下の一致点・相違点の認定がなされています。
- ユーザ名と付与ポイントが指定
- ユーザ情報に基づいて保有ポイントと連絡先を確認
- 保有ポイントに付与ポイントを加算
- 新たな保有ポイントを通知
店舗はインターネット上にあり、以下のようにシステム化されている点
- ユーザ情報はサーバ上に記録
- 連絡先はメルアド
- 通知はメールにて実施
進歩性は、この相違点について「当業者が簡単に思いつくか否か」(「想到容易性ともいう)という視点で判断します。本件では以下の通り、「当業者が容易に発明できた」として、進歩性を否定しています。
- コンピュータ技術に関する技術水準から、ユーザ情報を紙でなくサーバ上に記録することは、当業者にとって容易
- インターネット技術に関する技術水準から、住所でなくメルアドを連絡先として、郵送でなくメールで通知することは、当業者にとって容易
進歩性がある場合
一方、請求項4については、以下の認定がなされています。
- 上記に同じ
以下の要素が付加されている点
- 商品と交換ポイントの対応情報を格納
- 保有ポイントと交換ポイントを照合
- 交換可能な商品を抽出
- 交換可能な商品リストとして通知
この相違点については、「いずれの引例や当業者の常識(周知技術)からも導き出すことができない」ため、「当業者が容易に発明できたものではない」として、進歩性を肯定しています。
以上のように、当業者の技術常識だけで判断されることは少なく、引例との比較、複数の引例の組み合わせとの比較に基づいて判断されることの方が多いです。
この一致点・相違点を明確にするという考え方は、有利なビジネスモデルのアイデアを出す上でも使える手段かな、と思う次第です。