テーマ別の特許動向を、Fタームの5桁で構成されるテーマコード毎に俯瞰する試みをしています。
今回は、テーマコード2B030「植物の育種及び培養による繁殖」。
2013年1月1日以降の10年間弱で出願された特許及び実用新案が対象。J-PlatPatにて1629件がヒットしました(2022年7月26日現在)。
頻出キーワード
新たなキーワードの出現状況を見るべく、2020年以降の出願のみに絞ってみました。遺伝子操作による新品種の製造が主要な技術になるようで、過去10年間に渡って、そこは変わりが無いようです。
※ユーザーローカル社のサイト「AIテキストマイニング」を利用して、発明の名称および要約の頻出キーワードをクラウド表示したもの(上図が発明の名称、下図が要約)。名詞、動詞、形容詞は色分けされている。
出願件数推移およびランキング
2020年で出願件数が大きく落ち込んでいます。ダウアグロサイエンス(現コルテバアグリサイエンス)の落ち込みが大きいですが、モンサントと農業食品産業技術研究機構は比較的維持しているので、ダウだけが原因でなく、全体的に出願件数が下落傾向にあると思われます。
※出願件数の推移は出願年毎に表記。2020年出願分は全て公開されているはずなので、それ以前の経変変化は確定データ。
出願人×キーワード相関
発明の名称に関するキーワードを対象に、出願人別の出現状況を見てみました。
通常の遺伝子組み換えや育種に関するキーワードについては、上位メーカーが網羅しており、それ以下の各社も似たり寄ったりの状況です。
特に、モンサントやダウは、やはりというか、トウモロコシの育種に関して力が入っている模様です。一方、農業食品産業技術総合研究機構は、植物の品種ラインナップが意識されているようです。また、住友ゴム工業は本業のゴム関連、タキイ種苗はトマトに関して集中的に出願している様子が見えます。
ここ数年の傾向を見れば、モンサントとダウがリーダーとチャレンジャーを争っており、住友ゴム工業やタキイ種苗がニッチな部分を追っている、という感じに見えます。モンサントもダウもこの分野では”巨人”なので、正面から太刀打ちするのは困難、特定の植物品種に特化するのは、ある意味必然かとも思われます。
もっとも、住友ゴム工業は、植物育種分野の企業ではなく、当該分野への新規参入というよりも、本業のタイヤやゴム製品に関する原材料の入手方法、という観点かと推察されます。
ピックアップ(1)~ブロッコリ植物
以下、筆者の独断と偏見で2件をピックアップ。まずは、タキイ種苗の出願。
クレーム(請求の範囲)を見ると、「・・・で寄託されている」という文言が見えます。一般的に、植物の育種や微生物の発明について特許出願する際には、種子や微生物について「寄託」という行為をすることが多いです。
これは、遺伝子操作や品種改良したものというのは、第三者が追試しようとしても困難なので、一定の条件で”現物”を譲ってもらえるような仕組みが、ブダベスト条約によって国際的に設けられています。日本では製品評価技術基盤機構(NITE)が指定された寄託機関になっています。
また、種子に加えて、それから得られる植物自体(ここではブロッコリ)、および、結果として得られるその植物の形質(形状的な特徴)をクレームしています。
ピックアップ(2)~植物体・天然ゴム・タイヤの製造方法
次は、上述でも触れた、住友ゴム工業による発明です。
これの面白いところは、原料となるゴムの木の栽培から始まって、そこから天然ゴムを採取し、それをタイヤに仕上げるという一連をクレームしているところです。
下手すると「単一性がない」などとして拒絶を食らいそうな気もしますが、実際の審査では、新規性と進歩性の判断のみがなされています。残念ながら拒絶査定が出ており、不服審判で争っている最中のようですが、サプライチェーンの川上から川下まで一気にクレームする事例として興味深いので、健闘を祈りたいと思います。