テーマ別の特許動向を、Fタームの5桁で構成されるテーマコード毎に俯瞰する試みをしています。
今回は、テーマコード:2B013「林業」。筆者が勤務先で携わるテーマに深く関わる発明群です。
2017年以降の約5年間に出願された特許及び実用新案が対象。J-PlatPatにて136件がヒットしました。
出願件数推移
出願件数を出願年毎に並べたものです。太黒線が合計件数です。2020年出願分は全て公開されているはずなので、テーマ全体的には維持傾向かと思われます。
出願件数ランキング
この約5年間で最も多くの出願をしているのは中国電力。森林の伐採に関する出願が多いです。ビジネスモデルはあまり明らかではありませんが、水源涵養などの理由で自社で森林を保有しますし、バイオマス発電も盛り上がりを見せる中、自社保有林の管理に関係するものかと推察されます。
2位はトヨタ自動車。林業用の集材機械も事業展開しており、架線を利用した木材運搬に関する特許が多くみられます。
3位は株式会社マルイチ。鉄道の近くに生えている倒木の危険がある樹木の伐採など、特殊な森林管理の専業会社で、小さな会社ではありますが、技術開発にも力を入れているようです。
4位はASSEST株式会社。ネット検索からは、その実態があまり判然としませんが、東京大学発ベンチャーと思われます。近年、AIを使ったビジネスモデル特許を非常に多く出願しています。林業関連はそのひとつに過ぎないようです。
同じく4位に株式会社藤興業。森林管理から伐採・木材生産を事業とし、小さな会社ではありますが、伐採関連の計測装置など、技術開発にも力を入れているようです。
出願人×キーワード相関
発明の名称をテキストマイニングして並べたのが下表です。
いずれも樹木の伐採に関連する発明ですが、伐採に関する架線やチェーンソーなどハードに関するものと、画像の撮影による樹木の生育状況の判別などソフトに関するものに、大きく分けられるかと思われます。
頻出キーワード
ユーザーローカル社のAIテキストマイニングにより、要約における頻出キーワードをクラウド表示したものです。名詞、動詞、形容詞は色分けされています。
樹木の伐採関連を中心に、ロープ、架線、ハーベスター、マルチプロセスマシンなどのハード関連が主ですが、判別、推定、プログラムなどソフト関連も散見されます。
係り受け解析
出現したキーワードの感情分析(ポジティブかネガティブ、どちらで使われているか)を、AI解析により判別したものです。
ピックアップ(1)~原木の選別システム
以下、筆者の独断と偏見で、気になる特許を4件ほどピックアップ。いずれも、ディープラーニングを利用した発明です。
まずは、エノ産業株式会社による、木材の画像による選別システムに関する発明です。早期審査請求により登録されています。
下図は、樹木を選別するための装置の絵ですが、発明の中身は、節の有無などを如何に機械学習させ、判別するかのプログラムに関するものになっています。
ピックアップ(2)~樹木判別プログラム
次は、ASSEST株式会社による「樹木判別プログラム」。こちらも早期審査により登録されています。
ドローンを使った空中撮影画像や、地上から撮影した樹木の画像など、各種情報に基づき、ディープニューラルネットワークを組んで樹木の種類を判別する方法が記載されています。
ピックアップ(3)~樹木成長率予測システム
日本森林総研株式会社による樹木の成長率を予測するシステムに関する発明です。これも早期審査により登録。AI関連は早期審査が多用されているのでしょうか。
この発明は、樹齢、太さ、密生度合い等の情報に基づき、所定エリアの樹木成長率を予測できるような学習モデルを組み、算出するためのシステムになります。
ドローン等を利用したセンシング技術による情報収集も多用しており、森林に関する情報を幅広く集めて災害対策など様々な用途への応用も意識した、かなり大掛かりな発明の構成になっています。
ピックアップ(4)~路網計画策定システム
これも日本森林総研株式会社による発明で、樹木を伐採するための路網を計画するためのシステムです。
使っているシステム構成やアルゴリズムは、ほぼ上述した樹木成長率予測システムと同じものですが、情報として国土地理院等による森林地域のメッシュ地図データを利用し、あるエリアにおける木材伐採がどのくらいの利益を生むか、といった予測データを加えて、林道等の路網を整備する計画に役立てるという、とても興味深い試みです。
林業と言えば、ハイテクとは縁遠いと思っていましたが、意外や意外、むしろAIやIoTが積極的に活用されようとしている分野なのだと、認識を新たにした次第です。