AI利用で注意するべき権利や法律は?-肖像権・パブリシティ権・商標権からみるAI生成物の利用-
生成AIを使えば、実在する人物の顔や声、企業のロゴや商品パッケージなど、さまざまなものを再現できます。
往年の歌手の姿や歌声を再現し、現代の歌手とコラボレーションさせる、といったことも行われており、生成AIによる表現の可能性はますます広がっています。
しかし、こうしたAI生成物が増えるほど、他人の著作権を侵害する可能性が高まるだけでなく、肖像権、パブリシティ権、商標権、不正競争防止法など、著作権以外の問題に広がる可能性も出てきます。
今回は、著作権の周辺にあるこれらの権利や法律と、AI生成物との関係について解説したいと思います。
AIで生成したタレント画像に削除要請

2026年1月、アイドルグループSTU48の運営会社は、メンバーの容姿を模したAI生成画像がSNSに投稿されたとして、公開されたAI生成物の削除を求めました。
削除されない場合や、悪質な加工に対しては、発信者情報開示請求などで投稿者を特定し、法的手段も検討するとしています。
本件では、メンバーの写真を直接加工していなくても、そのメンバーだと識別できるならば、肖像権やパブリシティ権を侵害し得るというのが運営会社側の主張です。
この件は、運営会社による権利主張と削除要請であって、裁判所が権利侵害を認定したものではありません。しかし、権利者がAI生成物に対して削除要請や法的対応に踏み切るという、AI生成物の利用に対する現実的なリスクを示した出来事といえます。
国も「顔や声の無断利用」への対策を検討

法務省は2026年4月、生成AIによる顔や声の無断利用が深刻化している状況を踏まえ、それらに対する民事責任の在り方の検討を開始しました。
また、経済産業省は2025年、有名人の顔や声を再現して動画投稿や商品販売に使った場合、現行の不正競争防止法でどこまで対処できるかについて整理し、資料を公表しています。
この資料では、顔も声も本人を識別する情報であること、その利用方法によってはパブリシティ権による保護の対象となり得ることが述べられています。また、パブリシティ権は主として著名人を対象としたものですが、一般人の顔や声をみだりに利用されない利益についても検討されています。
これらの動きによって、ただちに新しい権利や禁止規定が制定されるわけではありません。しかし、著作権以外の権利や法律についても、AIによる無断利用にどのように適用するか、判断基準などを検討する動きが進んでいるといえます。
肖像権とパブリシティ権の違い

「肖像権」とは、顔や姿などの肖像について、本人の意思に反した撮影、公表、利用などから守るための権利です。人格的な利益を保護する権利とも言え、芸能人に限らず、一般の人にも適用されます。
AI生成画像の場合、実際には本人の画像を使っていなくとも、本人だと識別できる顔や容姿を再現した場合には、その利用目的、内容、公開範囲、本人への不利益などによっては、肖像権の侵害が問題になる可能性があります。
一方、「パブリシティ権」とは、著名人の氏名、肖像などが持つ「人を商品やサービスに引き付ける力」を保護する権利で、経済的な利益を保護する権利といえます。
最高裁は、肖像が鑑賞の対象となる商品や広告など、もっぱらその顧客吸引力を利用することが目的だといえる場合、パブリシティ権の侵害になり得ると示しています。
有名人を紹介、報道、論評する場面では肖像権が、その知名度を商品の販売や広告に利用する場面ではパブリシティ権が、それぞれ問題になりやすいといえます。
ただし、両者は明確に分けられるものではなく、むしろ同時に問題になることが多いといえます。
顔や声を商標で守る動き

ウォール・ストリート・ジャーナルなどは2026年1月、米国の俳優マシュー・マコノヒー氏について、本人の姿を撮影した短い映像や特徴的な音声などが、登録商標として承認されたと報じました。
これは、AIによる無断の模倣に対して、商標権を防衛手段として使おうとする試みで、注目すべき事例といえます。
しかし、この米国の事例と同じ方法が日本でも適用できるかは、まだ不透明です。少なくとも、商標登録をすればあらゆるAI利用から完全に守られるわけではありません。
商標法によれば、顔や声を商標として登録する場合、それをどのような商品やサービスに使用するかを指定して登録する必要があります。つまり、顔や声を商標で完全に守ろうとすれば、あらゆる商品やサービスを想定せねばならず、なかなか困難な作業といえます。
また、顔や声が商標登録され、その商標がAI画像に表示されていたとしても、それだけで直ちに商標権侵害になるわけではありません。
その表示が商品やサービスの提供元を示すマークとして使われているか、登録商標とどこまで似ているか、登録商標に指定されている商品やサービスと一致しているかなど、商標権侵害を認定するには、多くの判断が必要となります。
なお、商標権として問題にならなくても、有名な人物や企業の商品、サービス、広告であるかのような誤解を生じさせた場合には、不正競争防止法などの問題となることがあります。
他人の築いた価値に”タダ乗り”しない

肖像権、パブリシティ権、商標権、不正競争防止法は、それぞれ保護する目的や対象が異なりますが、他人の顔、声、氏名、ロゴなど、他人が築いた人格的・経済的な価値を、無断で使用させないという目的においては共通します。
しかし、そうした権利や法律の問題になる前に、AI生成物を公開したり利用するに際しては、「他の誰が築いた価値」を利用している可能性をいつも意識して尊重すること、他人の築いた価値に決して「タダ乗り」しないことが、まずは重視されるべきことだといえます。
次回は、こうした問題に対する各国の法律やガイドラインの状況について解説します。
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